嘘つき義弟の不埒な純愛
寿々の母が離婚したのは、寿々が四歳の時だ。
本当の父親は美麗な面差しで、寿々も子どもながらに”かっこいいパパ”が自慢だった。
父親への愛情が軽蔑に変わったのは、離婚の契起となった喧嘩を立ち聞きしてからだ。
『お前なんかよりよっぽど顔もいいし、金も持っている』
そう言って父は母を突き放した。母をなじる父の顔は醜く変わり果てていた。
父はその面差しを生かし、母よりも条件のいい金持ちの女性へ乗り換えたのだ。
離婚が成立するやいなや、流れるように再婚したと、あとから親戚に聞かされた。
泣き崩れる母を、顧みない父がひたすら憎かった。
それ以来、寿々には恋愛に対する苦手意識が芽生えた。
そして、男性から関心を持たれることに嫌悪感を抱くようになった。
彼らが口にしているのは本心なのか、嘘なのか。はたまた別の思惑があるのではないか。いつも頭をよぎって、信用できなくなる。
ただし、それが”弟”なら話は別だ。
弟というある種の繋がりは寿々を安心させた。
梓は男ではなく、弟だと。
頭の中で肩書を塗り替えてしまえば、梓を避けずに済んだ。
けれど、もう。
寿々には梓が男性にしか見えない。
いや、もっと前から寿々にとって梓はただの男だった。
(なんでキスなんか……)
頻繁に女性との交友関係が取り沙汰される梓は、寿々にとって最も嫌悪すべき類の男性だった。
それなのに、キスをされて嫌がるどころか、あまつさえ喜びを感じた自分が憎らしい。
中途半端な自分が一番嫌だった。