嘘つき義弟の不埒な純愛
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結婚二十周年の食事会当日。
寿々はお気に入りのネイビーのセットアップを着て、都内某所にあるハイクラスホテルのロビーで両親の到着を待っていた。二十年前、三階にあるイタリアンレストランで四人は初めて顔を合わせた。
寿々はお姫様みたいなふわふわのチュールワンピース身につけ、梓はベストに半ズボン、ワイシャツというなんとも窮屈そうな服装をしていた。
父親の後ろに隠れていた梓を見て、寿々は年上の自分がリードしなきゃと勝手に思い込んだ。
今思えばあの時から、寿々は梓の前では精いっぱいの虚勢を張っていた。
「寿々〜!」
「お母さん、お父さん、こっちだよ!」
待ち合わせの時間ぴったりに両親が揃ってやってくる。
「あれ?梓は?まだ来てないの?」
梓の所在を尋ねられた寿々は返答に困った。
結局、あれ以降梓からの連絡はなかった。
もしかしたら、食事会はキャンセルするつもりなのかもしれない。
しかし、寿々は両親にその理由を話す術を持ち合わせていない。
寿々が言葉に詰まったその時、ホテルのエントランスから見慣れたシルエットの男性が現れる。
トクンと心臓が跳ね上がる。