嘘つき義弟の不埒な純愛

「ごめん。撮影が押して、少し遅れた」
「忙しいのに来てもらって悪いな」
「大事な記念日だろう?来て当然だよ」

 申し訳なさそうにする父に、梓はさらりと言って返した。背中に隠れていた昔の面影はどこにもない。
 
「父さん、母さん。あらためて、結婚二十周年おめでとう」
「ああもう!本当にイイ男に育ったわね!」
「母さんのおかげだよ」
「ふふっ。うちの職場もいつも梓の話題でもちきりなのよ」

 四人はロビーから三階にあるイタリアンレストランに場所を移した。
 梓がいると目立つので、お店に頼んであらかじめ個室を用意してもらった。
 家族で囲った丸テーブル。寿々の左隣には梓が座る。

「まあ!美味しそう」
「すごいなあ!」

 食前酒に続いて運ばれてきたアンティパストは、カツオのマリネ。オレンジを使ったソースがかけられている。
 両親は美味しそうに口に運んでいたけれど、寿々には味が感じられなかった。
 それでもなんとか完食して、次の皿を待つ。
 食事中の話題は最近各所でご活躍中の梓のことばかりだ。
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