嘘つき義弟の不埒な純愛

 オフィスを出た頃にはすっかり日も暮れ、一九時を過ぎていた。

(うーん。ちょっと遅くなったかも)

 報告書の作成に手間どった結果、想定よりも時間を食ってしまい早足で駅まで向かう。
 寿々がその足で向かったのは会社の最寄り駅から三駅となりにある、駅直結の真新しい複合ビル。
 地下二階から七階までは高級ブランドショップや流行の飲食店などのテナントが入っている商業エリア。八階から二十四階までは名の知れた大企業が看板を掲げるオフィスフロア。二十五階から上の階は分譲マンションになっている。

 寿々はいくつかの手順を踏んで、住人専用のエントランスのオートロックを潜り抜けた。
 エレベーターに乗りこむやいなや、手首を生体認証のリーダーの上にかざした。
 ピッという電子音が鳴り、自動的にエレベーターが動き出す。
 最新式のセキュリティをすべて突破した先が、本日の目的地だ。
 寿々は高級感のあるアイアンドアの手前で立ち止まり、その脇にあるインターフォンを鳴らした。
 待つこと数秒。
 やがて、玄関扉がゆっくりと開かれる。

「いらっしゃい」

 扉が開かれると同時にはにかんだ笑みを見せたのは、数時間前、女性達が黄色い声を上げていた水無月梓その人だ。
 パッチリとした二重。スッと高い鼻の稜線。甘く色づく唇。白くこぼれる歯。
 看板の写真より随分と目が腫れぼったいのは、たぶん寝起きのせい。
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