嘘つき義弟の不埒な純愛

「寿々は?最近、仕事は忙しいの?」
「え!?」

 母から急に水を向けられた寿々は、素っ頓狂な声を上げた。
 
「え、あ、うん!まあまあ忙しいよ」

 不審に思われないように、苦心して言葉を捻りだす。
 どういうつもりなのかと、横目でチラリと梓の様子をうかがえば、彼は満足げに口の端を上げ、不敵に微笑んだ。

(……わざとだ)

 よりにもよって両親の目の前で。
 今まで模範的な弟を演じてきたのだから、これぐらいは許されるだろうと言わんばかりだ。
 寿々は気もそぞろになりながら、食事を続けた。
 幸いなことに、両親はテーブルの下で繰り広げられる攻防に最後まで気づかなかった。
 無駄にハラハラさせられた食事が終わり、ほっと息をついたのも束の間。

「上の階にバーラウンジがあるんだ。せっかくだし四人で飲み直さないか?昔このホテルに来た時はまだ、ふたりとも小さかっただろう?」
「あらいいわね!四人でお酒が飲めるなんて嬉しいわあ!」

 父の提案に母は嬉々として賛同した。カウンター席しかなさそうなバーラウンジだったら、こっそりテーブルの下で手を握られることもないだろう。
 梓は意気揚々とバーラウンジに繰り出そうとする両親に、にっこりと笑いかけた。
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