嘘つき義弟の不埒な純愛
「実はふたりに俺達からもうひとつプレゼントがあるんだ」
まったく心当たりがない『プレゼント』の存在に寿々は、首を傾げた。
梓はジャケットの内ポケットからあるものを取り出した。
「このホテルのスイートルーム。結婚二十周年の記念にふたりで泊まっていきな」
梓が両親の前に差し出したのは、ホテルのロゴが刻印されたルームキーだ。
一体いつの間にこんな代物を準備していたのか。
豪勢なプレゼントに驚いた両親は互いに顔を見合わせた。
「いいのか?」
「もちろん。そのために用意したんだ。なあ、寿々」
「あ、うん……」
完全に梓のスタンドプレーで寿々は何も聞かされていなかったが、正直に言うわけにもいかず無理やり話を合わせる。
「じゃあ、せっかくだし……ねえ?」
「そうだな」
両親は顔を綻ばせ、梓からルームキーを受け取った。
「ふたりとも、いい夜を」
梓は恥ずかしそうに肩を寄せ合ってレストランをあとにするふたりに手を振った。
「さて、これからどうする?バーでも行く?俺はどっちでもいいけど」
「……行かない」
梓への返答は思いの外、冷ややかなものになった。
この数週間、こちらからの連絡は無視した上に、プレゼントの件についてもなんの相談もなかった。
寿々なんて、何日も寝不足が続いたというのに、なんで平然としていられるの?
やっぱりあのキスは気まぐれで、弄ばれているとしか考えられない。