嘘つき義弟の不埒な純愛

「私、帰る」
「逃げるなよ」
 
 行く手を阻むように腕を掴まれ、ついカッとなる。
 
「離してよっ……!」
「もしかして、怒ってる?」
「当たり前でしょ!」

 あんなキスをしておいて、寿々が怒らないと思っていたのか。
 さっきだってテーブルの下でコソコソと手を握ってきた。
 本当に信じられない。

「私をからかって楽しい?」
「は?」
「なんでキスなんかしたの!可愛い弟でいてくれたら、それで――」

 姉弟のままなら、ずっと一緒にいられたのに。
 姉弟として仲良く人生を歩んで行けたら、どれほどよかっただろう。
 梓は前髪をグシャリとかきあげ、鋭い瞳で寿々を見下ろした。

「じゃあ、選べよ」
「選ぶって?」
「姉弟ごっこをやめて、俺のものになるか。このまま見ず知らずの赤の他人になるか」
「姉弟ごっこ……」
「そうだよ。お互いに面倒見のいい姉と手間のかかる弟を演じていた。不毛な芝居はもう終わりにしよう」

 先ほどまでのよき息子の顔はどこにいったのか。
 目の前には、寿々を籠絡するひとりの男が立っていた。

「その気があるなら今日中に俺の部屋まできて。ただし……覚悟はしておけよ」

 梓は吐息をたっぷり含ませながら寿々の耳元で甘く囁いた。
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