嘘つき義弟の不埒な純愛
「寿々が誰の女か朝まで徹底的に教えてやる」
梓はどこか楽しげだった。
鼓膜を震わせる享楽的な誘惑に抗えず、頭の芯が痺れるのがわかった。
梓は寿々を残し、先にひとりで帰ってしまった。
(どうしたらいいの?)
寿々はしばらくその場から動けないでいた。
十分ほどしてからようやく個室を出て、店員にお会計を尋ねたら、支払いはすべて梓が済ませていた。
寿々はおぼつかない足取りでレストランをあとにした。
ホテルのエントランスを抜け、ふらふらと街を彷徨い歩く。
(ずっと変わらないと思っていた……)
恋人よりも姉弟のほうが近しい関係だと思っていた。
けれど、梓はすべてを断ち切ろうとしている。
もし寿々が誘いを断れば、梓は容赦なく家族の縁を切るに違いない。
(私……)
いつから梓が好きだったのだろう?
梓から見捨てられそうになって、初めて自分の気持ちに気がつくなんて。
苦しくて、苦しくて、今にも胸が押しつぶされそうだ。
義理の弟にこんな感情を抱くなんて、きっと許されない。
梓を好きだと自覚した寿々は、決断を迫られていた。