嘘つき義弟の不埒な純愛

「寿々が誰の女か朝まで徹底的に教えてやる」
 
 梓はどこか楽しげだった。
 鼓膜を震わせる享楽的な誘惑に抗えず、頭の芯が痺れるのがわかった。
 梓は寿々を残し、先にひとりで帰ってしまった。
 
(どうしたらいいの?)

 寿々はしばらくその場から動けないでいた。
 十分ほどしてからようやく個室を出て、店員にお会計を尋ねたら、支払いはすべて梓が済ませていた。
 寿々はおぼつかない足取りでレストランをあとにした。
 ホテルのエントランスを抜け、ふらふらと街を彷徨い歩く。

(ずっと変わらないと思っていた……)

 恋人よりも姉弟のほうが近しい関係だと思っていた。
 けれど、梓はすべてを断ち切ろうとしている。
 もし寿々が誘いを断れば、梓は容赦なく家族の縁を切るに違いない。

(私……)

 いつから梓が好きだったのだろう?
 梓から見捨てられそうになって、初めて自分の気持ちに気がつくなんて。
 苦しくて、苦しくて、今にも胸が押しつぶされそうだ。
 義理の弟にこんな感情を抱くなんて、きっと許されない。
 梓を好きだと自覚した寿々は、決断を迫られていた。

< 33 / 44 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop