嘘つき義弟の不埒な純愛
寿々の上司らしい、いかにも誠実そうなあの男が、梓はどうしても気に入らなかった。
梓だけがあの男がこっそりこちらの様子を探りに戻ってきていたのに気づいていた。
だから、寿々は俺のものだとわざと見せつけてやった。
今まで演じ続けていた弟役をあっさり降りたせいで、すっかり寿々を怯えさせてしまい、かわいそうなことをした。
けれど、不思議と後悔はない。
弟という立場を利用しスキンシップを図れば、寿々はいつも小さくて丸い耳を赤く染めた。
梓を男性として意識する寿々を見るたびに、歪んだ自尊心が満たされる。
あの顔が見たくて、わざと共演した女性達とスキャンダルを演出してきた。
弟と男の狭間で揺れ動く寿々を眺めながら、梓はいつも早くこちら側にこないかと願っていた。
演技をしながらずっと、手ぐすね引いて待ち構えていた。
しかし、肝心なところで失敗してしまったらしい。
約束の時間が迫っている。
寿々は来ないだろう。
シンデレラを逃がした王子の気持ちが今ならわかる。
寿々の連絡先を消そうとスマホを手に取ったその時、ガチャンという音とともに玄関扉のロックが解除された。
「寿々?」