嘘つき義弟の不埒な純愛
◇
寿々は結論を先延ばしにして、当てもなく街を歩いていた。
梓と姉弟でいられるのは、あと数時間。
いっそ考えるのをやめたいくらいなのに、街には彼を起用した商品のCMや看板が溢れかえっている。
現実逃避は許されなかった。
(そういえば、もう発売されてたんだっけ)
寿々はふと思い出して、大通りにある大型書店に足を向けた。
一年密着して作られた梓のフォトブックの発売日は先週だったはずだ。
寿々の予想通り、書店には大量のフォトブックが平置きされていた。
入口からすぐの一番目立つ場所に置かれているだけあって、売れ行きは上々みたいだ。
(私も懲りないな)
寿々は舌の根も乾かぬうちに梓について考えている自分に呆れながら、フォトブックを手に取りレジまで持って行った。
書店に併設されたカフェでコーヒーを注文し、カウンター席に陣取る。
これで見納めかもしれないと覚悟し、フォトブックを開く。
寿々も知らない俳優としての彼の一面が次々と明らかになり。夢中になってページをめくっていく。
フォトブックの最後は簡単なインタビューが掲載されていた。
『俺、昔から好きな人にだけは一途なんです』
その一文と一緒に載せられていたのは、寿々もよく知る梓の無邪気な笑顔の写真だった。
――国民的俳優のくせに、嘘をつくのが下手すぎる。
「なんで正直に言うかなあ」
涙がジワリと滲み、頬を伝っていく。
願わくばこの一文が嘘であってほしかった。
梓の表情を見れば、たちまちわかってしまう。
梓が演技なしで本心からそう言っているのを、この世で寿々だけが知っていた。