嘘つき義弟の不埒な純愛

『そのままでいいから聞いてくれ』

 梓は寿々が扉の向こうにいると気づいていた。怖じ気づく寿々の気持ちを誰よりも理解してくれる。
 
『俺は昔から寿々が好きだった。それだけなんだ』

 声を振り絞り苦しそうに言う梓に、寿々のちっぽけな胸が軋んだ。
 最初に、姉弟ごっこを強いたのは寿々だった。
 両親が再婚したての頃、泣いていた梓に姉ぶって、『お姉ちゃんがずっとそばにいてあげるね!』と先に言いだしたのは寿々だ。

『寿々が望むなら、また姉弟ごっこをしてもいい。その代わり誰のものにもならないでくれ』

 悲痛な叫びが聞こえて、ぎゅっと目を瞑る。
 梓が本当に寿々への想いを隠して、ずっと弟の演技をしていたのなら、それはどんなに苦しかっただっただろう。
 ひとりよがりの姉弟ごっこを終わらせるなら、今しかない。
 寿々は勇気を振り絞り、ドアノブに手をかけた。
 ゆっくりと力を入れ、手前に引く。
 扉が半分ほど開いたところで、腕を強く引かれ部屋の中に引き入れられた。
 パタンと背後で扉が閉まった。
 次に感じたのは人肌の温かさと、梓がいつもつけているウッドの香水の匂いだった。

「寿々が好きだ。寿々しかいらない」
「わた、しも。梓が好き――」
 
 梓への想いを口にするのはそれなりの覚悟が必要だった。
 けれどもう、誤魔化せない。

「全部俺のせいにしていい。俺が寿々以外の女を好きになれないのが悪い」
 
 梓はこの期に及んで、寿々に逃げ道を与えようとしてくれた。
 頑なだった心がスルスルと解けていく。
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