嘘つき義弟の不埒な純愛
◇
「係長、少しよろしいですか?」
数日後、寿々は仕事終わりの篠原を呼び止めた。
誰かに聞かれないよう、ひとけのない非常階段に篠原を誘導する。
「ごめんなさい」
踊り場までやって来ると、そう言って潔く頭を下げた。
謝罪を受けた篠原は悲しむでもなく、怒るでもなく、ただ残念そうに眉を下げた。
「理由を聞いてもいいか?」
「好きな人がいるんです」
「もしかして、この間の彼?」
寿々は小さく頷いた。
プロポーズを断っておきながら、真実を話さないのはやはり気が引けた。
「本当にそれでいいのか?水無月にそんな道を選ばせるなんて、どう考えてもまともな男じゃない」
「彼を愛してるんです」
寿々は篠原の批判を真っ向から受け止めた。
「彼じゃないとダメなんです。ごめんなさい……」
梓がどんなに酷い男だろうと、一向に構わない。
寿々は彼から愛される喜びを知ってしまった。
もう何があっても引き返せやしない。