嘘つき義弟の不埒な純愛

「いっそ俳優なんか辞めて普通に就職するか。そうしたらもっと時間の融通が利く」
「それはダメ。俳優は梓の天職なんだから」

 この才能を生かさないなんてありえない。
 梓が俳優を辞めたら日本のエンタメ業界にとっては計り知れない損失だ。

「天職ねえ……。寿々の弟役を演じる方がよっぽど難しかったけど」

 梓は猫みたいに寿々の胸元に頭を摺り寄せた。
 
「やっぱり一緒に住んで」
「私がここに住んだら変じゃない」

 しつこい梓に寿々は呆れ気味に答えた。
 
「平気だろ。姉弟って肩書きは、こういうときだけ便利だ」

 梓はクスクスとさも楽しそうにほの暗い笑みを浮かべ、寿々の胸の谷間に顔を埋めた。
 都合のいいときだけは弟面をする梓に、寿々は内心呆れてものも言えなくなる。
 どうやら、とんでもない男に捕まってしまったらしい。

「寿々」

 口を尖らせてキスをねだる梓に応え、唇を重ねる。
 梓から囲い込まれた寿々に、もはや逃げる術はない。
 けれど、そもそも逃げるつもりはない。
 ふたりでどこまでも堕ちていこうと、あの時決意したのだから。





おわり


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