嘘つき義弟の不埒な純愛

「いただきます」
「いただきます」

 食事の挨拶をキチンと行うのが、水無月家の決まりだ。

「うまい」
 
 梓はパスタを口に運ぶなり極上の笑顔を浮かべた。
 パスタに和えたのは梓が好きなミートソースだ。
 一流の料理人が作ったわけでもない、どこにでもある普通のスパゲッティを、心から美味しいと思ってくれている。

(こういうところが憎めないんだよな……)

 サラダにドレッシングをかけながら、寿々はしみじみ思ったのだった。

 使い終わった食器を食洗機に放り込み、運転開始のボタンを押すと、寿々はそそくさとトートバッグを肩にかけた。

「泊まってけば?」
「ううん。帰る」

 家主である梓にとっては居心地がよくても、寿々にはなんだか落ち着かない場所だ。
 時刻は十時を過ぎたところ。まだ電車も走っている。
 
「なら、車で送る」
「いいって。電車で帰れるから」
 
 寿々は愛車である無骨な4WDのキーを手にする梓を慌てて制した。
 普段はゲームする暇もないくらい忙しいのを寿々だって本当はわかっている。
 たまにしかない休日をこんなことに費やしてほしくない。
 
「寿々をひとりで帰らせる方が心配だ。着替えるから待ってろ」

 梓はそう言うと、おもむろにスウェットを脱ぎ出した。
 寿々はギョッとし、ほとんど反射的に梓に背中を向けた。
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