輝く未来の国王は 愛する妃と子ども達を命に代えても守り抜く【コルティア国物語Vol.2】
「三人とも、今日はぐっすりだな」
「ええ、ほんと。楽しい一日だったものね」

ベッドで眠るあどけない子ども達の頭をなでてから、フィルとクリスティーナはソファに向かった。

「アンジェ様、ハーブティーをご用意いたしましたわ」
「ありがとう、ロザリー。今夜はもう休んでね」
「ええ、それでは失礼いたします。おやすみなさいませ、フィリックス殿下、アンジェ様」
「おやすみ、ロザリー」

侍女のロザリーが退室するのを、二人で微笑んで見送る。

偽りの花嫁候補として王宮入りした当初にミドルネームを名乗っていたことから、今でもロザリーとアンドレアはクリスティーナのことをアンジェと呼ぶ。
親しみを込めてそう呼ばれるのが、クリスティーナも嬉しかった。

「今日はとっても素敵な日だったわね」

ハーブティーを飲みながら、クリスティーナは思い出したようにうっとりと宙を見つめる。

「リリアンは綺麗だし、アンドレアもかっこよくて。それにアレックスもフローリアも、とても上手に大役をこなしていたし」
「ああ、そうだな」

すると、急にフィルが真顔になってうつむく。

「どうしたの?フィル。あ、また思い出しちゃった?フローリアがいつかお嫁に行くこと」
「それもそうだけど…」
「けど?」

顔を覗き込むと、いきなりフィルはクリスティーナを抱きしめた。

「ちょ、どうしたのよ?フィル」
「クリスティーナ。もう一度ウェディングドレスを着るとか、どういうこと?誰かと再婚するなんて、俺、耐えられなくて」

…は?とクリスティーナは思わず素っ頓狂な声を上げる。

「何を言ってるの?フィル」
「だって、フローリアと一緒に嬉しそうに笑ってて。クリスティーナが他の男のところに行くなんて、想像しただけでも、俺…」

ヤレヤレと、クリスティーナはため息をつく。

「フィル。一国の王太子ともあろう人が、そんなささいなことで一喜一憂してどうするの?もっとどっしり構えてなきゃ」
「ささいなことなんかじゃない!クリスティーナは俺の全てなんだ。俺が今幸せなのも、可愛い子ども達に恵まれたのも、全部クリスティーナのおかげだ。俺にとってクリスティーナは、己の命よりも大切な存在なんだ」

フィル…とクリスティーナは言葉に詰まる。
大きな腕でギュッと抱きしめられ、切なそうなフィルの声に、クリスティーナの心はじんわりと温かくなった。

「フィル、心配しないで。私はどこへも行かないわ。私にとってもあなたはかけがえのない人だもの。いつも優しくて頼もしくて、私を心から愛してくれる。三人の子ども達と私を、いつもそばで守ってくれる。私の幸せも、私の命も、全てフィルがいてくれるおかげなの」
「クリスティーナ…」

フィルは潤んだ瞳でクリスティーナを見つめると、もう一度優しく抱き寄せた。

「ありがとう。心から君を愛してるよ、ティーナ」

甘いささやきに、クリスティーナの胸がキュンと切なく痛む。

「私もあなたが大好きよ、フィル」

フィルはクリスティーナに微笑むと、ゆっくりと目を閉じて顔を寄せる。
クリスティーナも、フィルの愛を受け止めるように、そっと目を閉じた。

バルコニーから春の夜風がフワリと流れてきて、二人の髪をかすかに揺らす。
まるでキスを交わす二人を祝福するかのように…

フィルとクリスティーナは、胸いっぱいの幸せを感じながら、いつまでも抱きしめ合っていた。
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