その男、溺愛にて
それから、松永さんは私が余り物で適当に作ったオムライスを、美味しそうにバクバクと食べた。

「仕事…大丈夫なんですか?」
いつも、月命日の日は夜勤をしていると聞いていたから心配になって聞くと、

「紗奈の一大事に、仕事なんてしてられない。
腹痛だって言って遅出と変わってもらったから問題無い。」
えっ…!?
仮にも班長さんが、そんな見え見えの嘘で簡単に変わってもらって良いのだろうか…?

「いいんですか⁉︎…班長さんなのに、部下に示しがつかないんじゃないですか?それに私…別に一大事では無かったですし…。」

「一大事だろ。紗奈が月命日に家に帰ってなかった事なんて、今まで一度もなかったんだ。そこら辺探しまくった。スマホも出ないし…」

「すいません…。まさか松永さんが来るなんて思ってなかったので…。」

「俺は来ないなんて一言も言ってない。ただ…紗奈のお守りはもう終わりかなって思っただけだ…。」

「私、松永さんに、お守りしてもらったことなんてないんですけど…。」
松永さんにとって私はいつまでも、ただの子供なんなんだろうか…。
そう思うと、気持ちがしゅんと沈んでしまう。

「…あっ、いや、違う、言葉のあやだ。別に俺が勝手にお前を心配していただけで、お前の落ち度では決して無いから。」
急に沈んでしまった私を、心配したのか松永さんは慌てて言葉を取り繕う。

そして、立ち上がり食べ終わった食器を集めて、洗おうとキッチンに立つから、
「あっ!私がやりますから、松永さんは早く仕事に言ってください。」
と、慌てて駆け寄る。

「…俺だって、これぐらいは出来る。」
そう言って、松永さんはムキになって洗おうとするから、 
「そういうことじゃなくて。貴重な時間がなくなっちゃいますから。」

「それじゃあ、2人でやれば早いんじゃないか…?」

それから数10分。なぜか私は松永さんと並んでお皿洗いをすることになった。

険悪だった5年もの月日が流れたのに、一気にわだかまりが取れて、また、何事もなかったかのように…まるで父がいた頃のような雰囲気に逆戻りした。

それもこれも、松永さんのお陰だと思う。
あんなに罵倒して嫌って怒って、嫌な事を沢山言ったのに、こんな私を、咎める事もせず許してしまうなんて…。
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