その男、溺愛にて
A地点で護衛にあたる三好に何気なさを装って近付く。
「ご苦労。初動を変わってもらって助かった。」
紗奈の事で勤務時間を急きょ変わってもらった部下に礼を言う。

「いえ、いつもカバーしてもらってますのでこれくらい。…体調大丈夫ですか?」
俺の嘘を鵜呑みにしたのか、それともからかっているのか…判断つき難いが、

「問題無い。それよりザッと見て3人怪しい人物がいる。目を離すな。」
俺は3人の人物を示し三好に警戒させる。

「了解。…しかし、班長はどこに行ってもモテモテですね。羨ましい…。」

「俺を見てる場合じゃないだろ。守るべきはあの狸親父だ、目を離すな。」

「はーい。」
三好という部下は、観察力があり身体能力も長けている。ただ、気が多く警察官には少ないチャラいタイプだ。多少の扱い難さはあるが、この班に来て3年目で信頼はある。

「ところで彼女さんと揉めたんですか?毎月15日は班長の日なのに、急な出勤変更なんて、みんなにバレバレですよ。」
上司に向かってカマをかけてくるなんて、
「うるさい…。上司に楯突くとは査定案件だな…。ちゃんと仕事しろ。」

「うわぁ。権力行使して部下を虐めるのは止めてください。俺この班かなり気に入ってるんで見捨てないでくださいよー。」
三好のチャラい返答を聞いて、ため息が出る。

「…頼んだぞ。左遷されたくなかったら、しっかり仕事しろ。」

「了解です。」

呆れながら、次のB地点にいる小倉の元に行く。
彼女は入隊3年で配属1年目のルーキーだ。男の多いこの部署で紅一点ながら、武術に優れ抜擢されて北海道から遥々やって来た。
確か…25、6だったから、紗奈と同い年くらいか…。

「お疲れ。大丈夫か?」
この地点は出入口付近のチェックが主だ。比較的安全で場慣れしていない彼女向けだ。

「お疲れ様です、問題ありません。…あの、彼女さんいたんですね…。」
こっちもか…仕事中にプライベートの話しは禁物なのだが…。
ため息を吐きながら、それでも律儀に答える。
「三好からの情報か?彼女では無い…。俺のプライベートはいいから仕事に集中しろ。」

残りは同期の島津だから大丈夫だ。
目配せだけして店内に戻り、マル対の背後を何気なく追尾する。
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