その男、溺愛にて
何やってるんだ俺はと思いながら、紗奈の家まで戻り、コンビニと反対の道に向かって、車に乗り走り出す。

近くのスーパーで紗奈を見つけ、無事に拾って車に押し込む。
「ったく、三十路のおっさんを走らすな…。」

「松永さんはおっさんじゃありません。松永さんだったら絶対駅の方に行くだろうって、思ったのに…。」

「なぜ?」

「…人間観察、好きそうだから…。」

「それは…西宮班長だろ。俺は人混み嫌いだから、反対側のコンビニか公園に行くんだよ。覚えておけ。」

「あぁ…なるほど…。」

「ところで…アイツは?あの…佐伯って男来ただろ?」

「佐伯君に会ったんですか?」

「ああ、玄関で…。」
そう言ったところで紗奈が渋い顔をする。

「何で佐伯君を通すんですか?」

「…大事な話しがあるっていうから…。」
今度は俺が咎められる方向になる。

「佐伯君はただの同僚です。好きでも嫌いでもありません。」
紗奈がムキになって言う。

「そう…ハッキリ言ったのか?」

「だって…その方が、諦めつくでしょ?変に同情しちゃうと後が大変だから。」

何を知った風な…いや、紗奈は可愛いから…もしかしてこんな事よくあるのか⁉︎
「やたら、場慣れした奴が言う言葉だな…。」

「…場慣れなんて…。そんな、松永さんみたいにモテませんし…。」
なぜか俺の名を出して、怒った風な顔をする。
別にモテたいと思った事も無ければ、好きでこの顔に生まれて来た訳じゃ無い。
「別にモテていない。好きでも無い奴にモテたって意味ないだろ…。」

「ほら。モテる人が言う言葉…。」

「今は俺の事を話してるんじゃないだろ?」
家に着くまで、こんな風に終始戯れあって到着した。
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