その男、溺愛にて
「松永さんて…。」
今日何度目かの、この問いかけに少し緊張しながら目を紗奈に向ける。

「…綺麗な目の色してますよね。私好きです。」
今更…?紗奈には容姿の事で何か言われた事が無かったが、『好き』と言う言葉にドキッとしてしまう俺は、自分を抑える為に全神経を集中する。

「…何年一緒にいるんだ?
この目が嫌いで学生の時はカラコンしてたくらいだ。まぁ、他人には純日本人だって言ってるけど本当のところは分からない。俺は父親がいない私生児だから。」

「そんな事…松永さんは松永さんです。…隠してたなんて勿体無い。私は好きですよ、その色。」
ジッと見つめられて、もう一回ダメ押しで『好き』を押し売りされて、心臓がドキドキと脈打ってしまう。

「分かったから…食べるぞ。」
俺は照れ隠しで、ガッツキながら机の上の食事を全て食べ切った。

「ロールケーキ食べれますか?」
さすがに食べ過ぎた…。
皿洗いを手伝おうと袖をたくしあげながら、
「…無理だな…。」
と、言う俺に、
「持って帰りますか?」
と聞いてくる。

「冷凍してるなら溶けるだろ。…明日また食べに来る。」
さり気なく次来る口実を作った俺はほくそ笑む。

「…っ松永さん!手、どうしたんですか⁉︎」
あっ…ヤバい…隠してた手の傷を見つかってしまった。

手の甲には傷口を隠すため茶色のテーピングを貼っておいたのだが、ついに気付かれてしまったようだ。
ガバッと勢いよく手を引っ張られ、ぐるぐるのテーピングを外されてしまう。
< 21 / 29 >

この作品をシェア

pagetop