その男、溺愛にて
紗奈は怪我に敏感で、過剰に反応するから気を付けていたのだが…。
生前西宮班長が、『紗奈が子供の頃に、俺が仕事で大怪我して入院した事があったせいだ。』と言っていたのを思い出す。

「大丈夫だ。ただのかすり傷だから。」
少し抵抗して抗って見るが、握られた手を振り解く事は、心が痛んでとても出来やしない。

紗奈は壊れ易く傷付きやすい生ものだから、馬鹿力の俺にとって取扱注意人物なのだ。
彼女に強く出れないのはその気持ちが強いからだ。

「ちょっと痛いかもです…。」
絆創膏まで剥がされて傷を剥き出しにされる。

「自分で止血しただけですか?」
傷口をチェックをするように真剣な顔で見ている。
怒られるのが確定した俺は、無の境地でそれを待つ。

「ちゃんと消毒しなくちゃ…。」
紗奈は独り言のように呟いて、俺の手を引っ張りリビングのソファまで連れて行く。そして救急箱を持って来て傷口を消毒し始める。

「父もそうでしたけど…なんで警官って怪我するのは自分の落ち度だと思って、隠そうとするんですか?」

「ごもっとも…。」
既に絶対服従の俺は、ありがたい説法を聞くような気持ちになる。

「傷跡が残ったらどうするんですか?」

「男にとっては傷の1つや2つ、勲章みたいなもんだから問題ない。」

「傷口は隠すのに、傷痕は自慢なんですね。」

「ごもっとも…。」

「もっと、自分を大事にしてください。次怪我したら怒りますからね。出禁にしますよ。」

いや…もう既に怒っていると思うが…。しかし…出禁は耐え難い。

「…今後は気を付けます。」
素直に反省を表して、何とか罵倒されずに逃れる事ができた。
だけど…洗い物をしにキッチンへと戻った紗奈が何か変だ。

急に元気が無くなった気がして、しばらくその小さな背中を見守るが、耐えきれなくなって歩み寄る。
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