その男、溺愛にて
「子供になんて見えなかったよ…。
初めて会った時から俺にとっては特別だった。誰よりも大事で大切なんだ。
…触れても…いいだろうか…?」

恐る恐る紗奈に手を伸ばすと、向こうから抱きついて来てくれるから、そっと抱きしめる。

紗奈の頭の高さがちょうど俺の胸あたりだから、バクバクの心臓音が、聞こえてしまっているんじゃないかと頭の片隅で心配になるが…。
溢れ出す思いはもう制御不能だ。

「…松永さん…もう、絶対、怪我とかしないで、くださいね。」

「それ…今、大事か?」

「凄く…大事です。長生きして欲しいから…。」

「…それは俺がおっさんだからって…ディスってるのか?」

「違います。父みたいに…なって欲しく無いから…。」

「善処します…。」
SPの仕事は大なり小なり怪我が付きものだ。紗奈を泣かすつもりは無いが、心配させるならば、考えなければならないかもしれない。

しばらく抱き合って、幸せを噛み締める。
このまま時が止まればいいのにと思うほどだが、時間は容赦無く過ぎて行く。

離さなければと思うのに、気持ちが離せないと葛藤を繰り返す。それなのに…紗奈はカクンと急に座り込みそうになって、驚き瞬時に抱き止めるが…

「大丈夫か!?どうした?」

「あっ…ごめんなさい。なんだか安心しちゃって、眠くなっちゃった。松永さん、お日様みたいに温かいから…。」

こっちは、中学生みたいにドキドキしてるのに…思いの強さは雲泥の差なのか…?と、少し拍子抜けする。

「失礼な…仮にも好きだって伝えた男にその仕打ちか?まぁ。紗奈らしいな。」
笑いながら俺は言う。
きっとずっと、俺達はこんな風に戯れあって行くんだろうなと、安心感を感じざる負えない。

「紗奈もお眠だし…そろそろ帰るか。」
俺はおでこに軽くキスだけ落として、紗奈から離れる。

「ちょっと、若干…子供扱いしてませんか?」
紗奈は不服のようだが、人の腕の中で寝る奴が悪い。

「じゃあな。明日…まぁ近いうちにまた来る。」
そう言って、後ろでに手を振って玄関でさよならをする。

「また、明日来て下さいね。ロールケーキ食べちゃいますよ。」
振り返ると、ドアから顔を出した紗奈がら手を振っている。…玄関ドアを開けてまで言う事だろうか?

まぁ、そういうとこが堪らなく可愛いのだが、とりあえず、週末に松永班長の墓参りでもして、許しを乞おうと思い立つ。
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