その男、溺愛にて

結婚式は驚きの連続

ある晴れた日の日曜日。

海岸沿いにある小さなチャペルに2人はいた。

チャペルはガラス張りになっていて、真っ正面に海が一望出来る作りとなっている。

紗奈は純白のウェディングドレスを着て、その風景を楽しんでいる。松永はというと…こちらも白い軍服姿だ。
ただ、顔は仏頂面で不服そうに紗奈を見つめている。

「紗奈…本当にこんな結婚式で満足してるのか?」
ここ1週間、何度問いかけただろうか…。

始めての彼氏彼女の関係にワクワクドキドキの紗奈だったけど、付き合って3ヶ月。

変わったのは松永の週1回の訪問と、少しのハグと数えるくらいのキスだけで…。
律儀な男、松永はどうも紗奈の父に後ろめたい気持ちがあるらしい。

恋人らしい事をするのは、ちゃんと結婚してからだと律儀に決めているらしいから、『じゃあ、結婚しましょうか?』と紗奈はちょっとそこまで、ぐらいな気楽な感じで言ってみる。

『本気か!?』と松永は驚きながらも、紗奈しかいないと思っているから二つ返事で了承した。

籍を入れるなら、ちゃんと結婚式を挙げようと松永からの提案だったのだが…。
『じゃあ、2人だけで結婚式をしましょう』と、また簡単にこの場所を決めてしまうから、本当にそれで良いのかと松永は訝しんでいる。

「私も松永さんも両親はいないし親族とは無縁でしょ。結婚式なんて、形だけのものですから思い出写真くらいが丁度良いです。」

「だけど、友人とか会社の人とか祝福してもらいたいだろ?一生に一度の結婚式なんだから…。」

「松永さんは?そうしたかったんですか?」

「俺は別に…紗奈さえいれば後はなんだっていいが、もし…俺の仕事や立場のせいで、遠慮しているんだったら申し訳ないなと思ってる。」

「そんな事。私も松永さんと一緒に居れたらそれだけで満足です。」
満面の笑みで紗奈がそう言う。
その笑顔を見て、松永もやっとフッと笑う。

「分かった。俺は紗奈さえ笑っていてくれたらそれでいい。…だけど、今日から紗奈も松永になるんだ。そろそろ、名前で呼んでくれないか?」
紗奈には絶対服従だけど、それくらいの要望は受け入れてもらいたいと、松永は日々思っていた。

少しの間の後、紗奈は意を決したように松永の名前を呼ぶ。
「…悠人さん…。」

「良かった。ちゃんと覚えてたんだな。」
松永改め、悠人もやっと満面の笑みになる。

「…当たり前です。素敵な名前だなってずっと思ってましたから。」
紗奈が照れくさそうにそっぽを向いてしまう。

「紗奈、改めて、これからもよろしく。
実は写真撮影だけじゃなくて、ちゃんと式をお願いしてあるんだ。」

突然、教会内にパイプオルガンの音色が鳴り響く。
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