その男、溺愛にて
「今日は…ありがとうございました。こんな贅沢、初めてです。」
紗奈は悠人の体温に包まれ、安心しきった声で言う。
「俺も旅行とか行った事が無かったから初めてだ。」
「明日…お仕事なんじゃないんですか?」
「島津が…同班の同期なんだが、どうせ新婚旅行なんて行けないんだから、1日くらい休んでのんびりしろって言われたから有休を使った。」
「そうなんですね。良い職場で良かった。」
「そうだな…。実は、近々人事があって、警備部警護課の課長になる事が決まった。デスクワークは苦手だが、世帯を持ったとこだし、腰を据えて働けと上からの御達しだ。」
「それは…おめでとうございます。大出世ですね。」
「俺は現場が好きだから、出来れば西宮班長みたいにずっと現場にいたかったが、紗奈を守るのが俺の1番の仕事になった。出来れば定時で夜勤の無い仕事がしたいと思ったんだ。」
「ありがとうございます…。現場を援護するお仕事、素敵だと思います。これで傷を増やして、私に怒られるのが回避出来ましたね。」
ふふっと可愛く笑った紗奈が愛しくて、悠人は背後からそっと抱きしめる。
「俺の姫は、目を離した隙に直ぐどこかに居なくなる。SP泣かせの困った警護対象だから、生傷は絶えないだろうな。」
悠人がそう冷やかしの目を向けて来る。紗奈は目をぱちくりして、その腕の中、向き合う形になって微笑む。
「私の事ですか?私ちゃんとした大人なので、警護してもらわなくても大丈夫ですよ。」
「俺が心配で放っておける訳無いだろ。」
サラッと頬を掠めるくらいのキスをする。今日は何だかスキンシップが多くて、初心な紗奈はその都度ドキドキさせられる。
「今日の悠人さん…スキンシップ多めで…困ります。」
「それはそうだろ…今まで我慢してたんだ。晴れて夫婦になったんだから、これからは遠慮なく行かせてもらう。」
そう言って、紗奈の唇を何度となく角度を変えてキスをする。徐々に深くなる口付けに、たじたじなのは紗奈の番だ。
舌を差し入れられ絡められれば、紗奈は未知な身体の疼きを覚えて戸惑う。
それでも容赦無く耳たぶを弄ばれ、嵌まれ煽られる。
息も絶え絶えで立っていられなくなった紗奈を、軽々抱き上げ部屋へと運ばれる。
ベッドにそっと下ろされ組み敷かれれば、紗奈の心臓はバクバクで…性急に絡まれる深い口付けに翻弄される。
「…ゆ、悠人さん…ちょ、ちょっと待って…。」
パジャマの前ボタンに手がかけられて、さすがの紗奈もその手をぎゅっと掴んで止める。
見つめ合う事数秒、悠人の綺麗な茶色の瞳に吸い込まれるように見惚れてしまう。
「無理だな…待てない。」
初めて悠人が紗奈の言う事を聞いてくれず、止められた手にキスを落とされ、舐められゾクゾクと未知な世界に導かれる。
指と指を絡めベッドに縫い止められた手を、離してもくれないから、暴かれて行く身体を隠す事も出来ない。
「綺麗だな…ずっと見ていたいくらいだ。」
「ゆ、悠人さんっ…恥ずかしい…。」
「なぜ?紗奈を愛でるのは夫である俺だけの特権だ。」
そう言って容赦無く紗奈の全てを暴いていく。
後は、何がどうなったのか…
紗奈は翻弄されて煽られて、悠人の知らない一面を知る事になる。
ドロドロに溶かされて初めて一つになれた時、紗奈の目から幸せの涙が流れ落ちた。
終始優しくされながら、溶かされた身体は夢の中のようなふわふわとした世界を彷徨い、いつの間にか眠りにつく。