その男、溺愛にて
「じゃあ。俺はこれで…。」
そう言って松永は立ち上がり、紗奈から離れて行ってしまう。
今更…5年前に戻る事なんて不可能だ。
行ってしまう…もう2度と会えない…。

紗奈は唇を噛み締め、初恋が今、本当に終わりを告げた事を知る。

大好きだった。…父が生きていたあの頃。
彼は1番近くで、私を見守っていてくれた。父の次に大切な人だったから、あの時…もし彼を失っていたとしても、同じように父を恨んでいたはず…。

玄関から、ガチャンとドアの閉まる音を聞く。

バッと紗奈は立ち上がり玄関に走るけど…時、既に遅し。
玄関タイルの上にペタッと座り込み、紗奈は1人これでもかと言うほど泣いた。
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