その男、溺愛にて

警察官の娘(紗奈side)

(紗奈side)

「あの…西宮さん…ごめんね、泣いてるところ。」
既にオロオロ状態の佐伯君が、申し訳なさそうに私にそっと声をかけて来る。
佐伯君とは銀行の同期で、支店は違うが月に一度同期会で会う仲だ。
そう、彼氏でも友達でも無くただの同期だ。

先日の同期会でみんなでワイワイと飲んでいたところ、酔って口が軽くなって、隣にたまたま座っていた佐伯君にポロッと話してしまったのが、事の発端だった。

もう、いい加減、松永さんを解放してあげなくてはいけない。自分の身代わりになって、亡くなった上司の罪滅ぼしで、未来ある彼の人生を狂わせてはいけないと。このところずっとその事ばかり悩んでいたから…。

父が亡くなって5年。
月日はあっという間に過ぎて、私は今年25歳になった。松永さんは8歳違いだから33歳。彼はエリートの幹部候補生で、現場で命を張って仕事をしてる場合じゃないんだと、父が言っていたのを思い出した。

「佐伯君…巻き込んじゃってごめんね。」

「それは良いんだけど…あの人凄いイケメンだね。TVから出て来た俳優さんみたいで、ちょっとさすがに怖気付いたよ…。」

「本当…何で。警察官なんかになったんだろう…。」

出会った時からか変わらずイケメンだったから、恋人の1人や2人くらいいる筈だ。サッサと結婚でもしてくれたら、私だって吹っ切れるのに…。

そう思いながら、握り締めた手の中の松永さんのハンカチを見つめる。もう2度と、うちに来てくれる事は無いんだと…。

そう思うだけで目の前が真っ黒になった感覚がする。

「また、何か助けられる事があったらいつでも言ってね。」
そう言って、同期の佐伯君は帰って行った。
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