その男、溺愛にて
1週間、2週間と経っても、気持ちは全然落ち着かず、無理矢理でも彼の事を忘れようと努力した。
時が解決してくれるんだと、胸がチクチク痛んで苦しいけれど…きっといつか忘れる事が出来るはず。

そして、父の月命日がまたやって来る。

今日は朝からソワソワして仕事に身が入らなかった。締めの時点で50円がどうしても合わず、店内をくまなく探す事になった。

職場のみんなにも迷惑をかけてしまったと、泣きたい気持ちを抑えて、1時間ほど手分けして探して、やっと見つかった。
場所は受付カウンターに置かれたマスコットキャラクターの貯金箱の中…。

なぜ?誰が⁉︎店内の防犯カメラを解析したら、小さな男の子がカウンターに落ちていた、50円を近くにある貯金箱に入れている映像が映っていた。

ここでやっと私の落ち度ではなかった事が判明した。

他のカウンター担当が、小銭を両替希望で持って来た客様から預かり、機械で小銭を振り分けるさえに、知らずに転がり落ちた事が判明した。

良かった…始末書ものだったからヒヤヒヤした。そして、お客様の大切なお金を預かっているんだと、改めて身が引き締まる思いがした。

なんだかんだで、定時を2時間過ぎて帰宅する。

家に着いた時、駐車場に見慣れたツーシートの黒いスポーツカーが、停まっている事に気付く。その途端、ドキドキと高鳴る自分自身の心臓の音を聞く。

えっ…何で⁉︎

私は玄関に続く門の前で立ち尽くす。
ガチャっと車から降りて来たのは松永さんで…

どうして…⁉︎
自分の役目は終わったって言っていたのに…。震える手で門の扉をなんとか開けながら、会いたいと思い過ぎて、幻を見たんじゃないかと自分の目を疑う。

「紗奈…!やたら遅いから何かあったんじゃないかって心配した。どうかしたのか?」
早足で近付いて来た松永さんが、私にそう呼びかける。

「えっ…?松永さんこそ…何で…?」
本物だった…と戸惑いながら返事を返す。

「今日は月命日だろ。いつもの時間にいないから、どうしたのかと思って心配した。スマホにも出ないし…。」

えっ⁉︎と思い、カバンを開けてスマホを取り出せば、松永さんからの着信が10件以上…

スマホを松永さんと繋げていた事さえ、失念していた私は驚く。

私と松永さんの間で、特に使うことなんてないだろうと思いながら、出会った当初父の勧めで、SMSのアプリを繋げていた事を思い出した。

「何かあったのか?」
再度聞かれるから、

「仕事場でトラブルがあって…2時間ほど残業したんです。」
と伝える。
玄関に続くアプローチを歩きながら、家の鍵をカバンから探すが、動揺しているからか、なかなか見つからない。

しゃがみ込んで玄関ポーチの灯の下で、やっと見つけて鍵を開けた。

「紗奈は…変わらないな。」
フッと笑う松永さんが、急に腹立たしくなる。 
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