大好きだから私はあなたを忘れた
俺が降りていくと、お母さんはスマホを片手に、絶望したような顔をしてこちらを見ていた。

「蓮馬……玲衣ちゃんが……玲衣ちゃんが……」

玲衣?玲衣がどうした?

まさか、告白したことがバレた?

……いや、それだったらこんな顔はしないだろう。

「今、優里ちゃんから連絡があって……」

優里ちゃんというのは玲衣のお母さんの名前だ。

幼馴染なだけあり、母同士も仲が良く、優里ちゃん、あやちゃんと呼び合っている。

「そこのスーパーの近くの交差点で、トラックにはねられたって……」

「はっ?玲衣が?」

わけがわからなくて思わず聞き返すと、お母さんは重々しくうなずいた。

「全治半年以上の怪我。それと……様子がおかしいみたいで、いろんな検査をするんだって」

半年?

半年って、一年の半分じゃねえか。

そんな長い間治らないって……


……俺が、引き止めたからだ。

俺が、逃げ出したからだ。

一秒でも時間が違えば。

ほんの数秒、時間が違っていれば、玲衣が轢かれることなんてなかった。

後悔したってしきれない。

タイムマシンでもあればなと、この時初めて本気で思った。

こんなに過去に戻りたいと思ったことはない。

過去に戻って、ちょっと前の自分に言い聞かせたい。

逃げるなよ、って。

逃げたらずっと後悔するぞ、って。

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