大好きだから私はあなたを忘れた
「それって……」

私の言葉を遮るように、優里さんが、震える声で言った。

「私……」

少し、沈黙が走る。

その沈黙は、優里さんが泣くのをこらえているように思えた。

「忘れられちゃったみたい……。昨日ね、玲衣に会いに行った時、玲衣は、私のことを知らない人を見るような目で見てきたの」

言葉が、発せられなかった。

そんな私を気にせずに、優里さんはもくもくと話を続けた。

「……その時、言われた。お医者さんに、一部の記憶がなくなっているのかも、って……」

最後は掠れて、聞き取れないくらい小さな声だった。


玲衣……玲衣のお母さんのこと忘れちゃったの?

お母さんのこと忘れるくらいなら、きっと私のことも忘れてるよね……。

玲衣に早く会いに行こうと思っていたのに、行くのが怖くなった。

あの、私を見る玲衣の優しい目。

大好きだった、玲衣の眼差し。

次に会う時はもう、大好きな玲衣じゃなくなっているかもしれない。

……ううん、訂正する。

どんな玲衣でも大好き。

でも、今までの玲衣じゃなくなっているんだろうと思った。

明日、会いに行くのをやめようか。

そんなことを考えたけど、会いに行くのをやめることは、罪悪感があった。

どこからきている罪悪感かはわかんないけど。



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