大好きだから私はあなたを忘れた
記憶喪失……

玲衣……優里さんのことも忘れたのか……?

お父さんもお母さんも、お前の兄ちゃんだって。

全部忘れたのか?

俺のことも……忘れてるよな。

俺のせいで事故に遭ったんだから、忘れたいよな。

でも、せめて家族とか、親友とかは覚えていてほしい。


「平松さんっ!」

突然、遠くから声が聞こえた。白衣を着た若い女の人が、こちらに向かって走ってくる。

看護師だろうか。

近くまで来ると、看護師らしき人がもう一度「平松さん」と言った。

優里さんは、不安そうな顔をしながら看護師の方を向く。

俺は、その場にいるのがなんだか気まずくて、一歩下がったところで会話を聞いていた。

その看護師は、息を切らしながら優里さんに向かって言った。

「玲衣さんの……記憶がなくなっているのは……事故の直前まで、愛してやまないような存在の人だったんじゃないかと、医師も推測しています」

「え……?」

優里さんから、言葉が漏れた。


……ということは、優里さんは、玲衣にとって大好きで、愛してやまなかった人だったんだろう。

母親だから、当然とも言えるけど。


そうなったら、俺が忘れられていたら俺のことを愛していたってことになる、よな。

それはない。

じゃあ、玲衣は俺のことを覚えている。
< 36 / 39 >

この作品をシェア

pagetop