大好きだから私はあなたを忘れた
「頑張りなよーっ」

教室の前で瑠奈はそう言って背中を押す。

私の横の席にはもう蓮馬がいる。

そのことを言っているんだろう。


私は恋愛に全然積極的じゃない。

だからいつも、相手から来てくれるのを待ってるけど、私に気があるわけでもないから、なにもない。

そんな私にとって、席替えで隣になれるなんて、神様が先生を操ってくれたとしか思えない。

「なあ」

席につくやいなや、早速蓮馬に声をかけられた。

うまく答えられず、顔だけ向けると、蓮馬は続きを話しだした。

「あのさ、英語のワーク、もうやった?」

心臓の音がうるさいって、こういうことを言うんだなあと謎に客観視しながら答えた。

「何ページまでだったっけ?」

少しでも長く会話していたい私は、わざと質問した。

何ページまでかなんて、とっくにわかっている。

四十九ページまで。

「四十九とかそこらへん」

「ん、ちょっと待って」

全部終わっているのもわかっている。

自分のためだけにいろいろ嘘をつくのはめちゃくちゃ罪悪感だらけ。

だけど、すぐ欲に負けてしまう自分はだめだなって毎日思っている。

でも、この蓮馬と話す時間を一秒でも伸ばせたらいい。

本当に、馬鹿みたいな考え。

自分でもちゃんと自覚している。

< 5 / 39 >

この作品をシェア

pagetop