悪役令嬢だったので正直に王子に好みじゃないと伝えた結果
乙女ゲームでは、ゲーム開始時点でアルバートはルルと顔見知りだった。慈善活動に訪れた教会で巡り会ったという設定だったと思う。メインヒーローとヒロインの運命の出会いなのだから、既に淡い想いを抱いている可能性は大なのではなかろうか。
ルルは私たちと同い年ではあるが、私たちとは違ってこの春には入学しない。来年、二年生になってから編入してくる。
だから入学式の後に行われるダンスパーティーには、私は気兼ねなくアルバートのパートナーとして参加できる。そんな背景もあって、それなのに彼はもうルルのことを考えていたのだろうかと思い少し胸がチクッとしてしまった。
とはいえ、私はスパダリ好きだけれど、自分がそのスパダリに相応しいとは毛頭思っていない。スパダリになったから婚約者のままでいたいなんて、そんな厚かましいことを言うつもりもない。
ここは一つ、邪魔立てする気はないアピールをしておこう。
「殿下は優秀になられました。今の殿下であれば、ごく私的な理由で贈り物をしても口さがなく言う者もいないでしょう」
「! 確かに」
この反応、本当にごく私的な理由で贈り物をしたい相手がいたらしい。
複雑だけれど明るい未来のためだ、ポイント稼ぎをしておいてよかった。
――なんて思っていた翌月。私の希望で注文したドレスとともに、アルバートがごく私的な理由で誰かに贈ったはずのドレスも私宛に届いていた。
店で見たときと違うのは、白銀の糸でそこかしこに刺繍が加えられていたという点。明るい新緑色のドレスに白銀の糸の刺繍……何だろう、この見覚えがありすぎる配色は。
『君の家のことも君が好むドレスも知っているけれど、僕がこのドレスを着た君を見てみたい』
何だろう、この本物の恋人に宛てたようなメッセージカードは。
「んんんっ」
やばい。これはやばい。
これでは私の方こそ、世にある断罪される悪役令嬢にジョブチェンジしてしまいそう。
そう戦々恐々しながらも、のこのことアルバート色のドレスでパーティーへ出ることにしたのだから、私のスパダリ趣味は始末が悪い。
でも迎えに来たアルバートの嬉しそうな顔はプライスレスだった。なので後悔はしない。
ダンスパーティーは無事、アルバートのパートナーを務められた。
それどころかダンスパーティーで踊った曲は三曲。踊った相手は三曲ともアルバート。
通常、婚約者とは最初の一曲しか踊らない。もっというなら、夫婦でさえ三曲踊るカップルは少ない。
来年底辺へ落ちるのに、これ以上幸せゲージを上げないでほしい。落とし穴より下り階段を求む。
「アルバート殿下、私は独占欲が強いんです」
学園から家路へ向かう馬車の中、私は隣に座る彼におもむろに切り出した。
ちなみに車内は二人きりだ。なのに何故か、アルバートは向かいではなく私の隣に座っている。
伸ばせばすぐそこにあった彼の手をギュッと握り、私は顔を上げてペリドットの瞳を見つめた。
「婚約者は所詮、婚約者止まりです。だから籍だけでも入れてもらえませんか?」
来年に向けてフェードアウトするなら、今から下り階段を降りるべし。私は淑女らしからぬ無茶振りをして自滅する作戦に出た。
驚きに目を瞠ったアルバートが次にする表情は、呆れたものかはたまた失望か。
どうせこのまま行けば私は、悪役令嬢にジョブチェンジを果たして淑女からかけ離れてしまうのだ。失態が前後したところで痛くも痒くもない。
そう思ったのは、嘘ではなかった。
「確かに。セレスティア、そうしよう」
だけど本音では今回もまたそう返してもらいたかったことも、嘘ではなかった。
彼がこうして柔らかく微笑んでくれることも、私の真の望みだった。
「僕も独占欲が強いんだ。きっと君が考えている以上に」
アルバートが内緒話をするように、私の耳に口を寄せて言ってくる。
彼のその口はそのまま迷いなく、私の唇を塞いだ。
ルルは私たちと同い年ではあるが、私たちとは違ってこの春には入学しない。来年、二年生になってから編入してくる。
だから入学式の後に行われるダンスパーティーには、私は気兼ねなくアルバートのパートナーとして参加できる。そんな背景もあって、それなのに彼はもうルルのことを考えていたのだろうかと思い少し胸がチクッとしてしまった。
とはいえ、私はスパダリ好きだけれど、自分がそのスパダリに相応しいとは毛頭思っていない。スパダリになったから婚約者のままでいたいなんて、そんな厚かましいことを言うつもりもない。
ここは一つ、邪魔立てする気はないアピールをしておこう。
「殿下は優秀になられました。今の殿下であれば、ごく私的な理由で贈り物をしても口さがなく言う者もいないでしょう」
「! 確かに」
この反応、本当にごく私的な理由で贈り物をしたい相手がいたらしい。
複雑だけれど明るい未来のためだ、ポイント稼ぎをしておいてよかった。
――なんて思っていた翌月。私の希望で注文したドレスとともに、アルバートがごく私的な理由で誰かに贈ったはずのドレスも私宛に届いていた。
店で見たときと違うのは、白銀の糸でそこかしこに刺繍が加えられていたという点。明るい新緑色のドレスに白銀の糸の刺繍……何だろう、この見覚えがありすぎる配色は。
『君の家のことも君が好むドレスも知っているけれど、僕がこのドレスを着た君を見てみたい』
何だろう、この本物の恋人に宛てたようなメッセージカードは。
「んんんっ」
やばい。これはやばい。
これでは私の方こそ、世にある断罪される悪役令嬢にジョブチェンジしてしまいそう。
そう戦々恐々しながらも、のこのことアルバート色のドレスでパーティーへ出ることにしたのだから、私のスパダリ趣味は始末が悪い。
でも迎えに来たアルバートの嬉しそうな顔はプライスレスだった。なので後悔はしない。
ダンスパーティーは無事、アルバートのパートナーを務められた。
それどころかダンスパーティーで踊った曲は三曲。踊った相手は三曲ともアルバート。
通常、婚約者とは最初の一曲しか踊らない。もっというなら、夫婦でさえ三曲踊るカップルは少ない。
来年底辺へ落ちるのに、これ以上幸せゲージを上げないでほしい。落とし穴より下り階段を求む。
「アルバート殿下、私は独占欲が強いんです」
学園から家路へ向かう馬車の中、私は隣に座る彼におもむろに切り出した。
ちなみに車内は二人きりだ。なのに何故か、アルバートは向かいではなく私の隣に座っている。
伸ばせばすぐそこにあった彼の手をギュッと握り、私は顔を上げてペリドットの瞳を見つめた。
「婚約者は所詮、婚約者止まりです。だから籍だけでも入れてもらえませんか?」
来年に向けてフェードアウトするなら、今から下り階段を降りるべし。私は淑女らしからぬ無茶振りをして自滅する作戦に出た。
驚きに目を瞠ったアルバートが次にする表情は、呆れたものかはたまた失望か。
どうせこのまま行けば私は、悪役令嬢にジョブチェンジを果たして淑女からかけ離れてしまうのだ。失態が前後したところで痛くも痒くもない。
そう思ったのは、嘘ではなかった。
「確かに。セレスティア、そうしよう」
だけど本音では今回もまたそう返してもらいたかったことも、嘘ではなかった。
彼がこうして柔らかく微笑んでくれることも、私の真の望みだった。
「僕も独占欲が強いんだ。きっと君が考えている以上に」
アルバートが内緒話をするように、私の耳に口を寄せて言ってくる。
彼のその口はそのまま迷いなく、私の唇を塞いだ。