たまさか猫日和
ホムラちゃんと別れ、テキトーな居酒屋へ入った。

海星は、料理の原価率を割り出すのに余念がない。
「儲けあんのかなぁ。これはほぼサービスだろうし、サラダは仕入れだろ?」
「仕事熱心だねー。まさか店を継ぐとは思わなかったなぁ」

さっき自分が呆れられていたのも忘れて、銀河が枝豆を口にする。

「かと言って、公務員が向いてるとも思わなかったけど」

海星の前職のことを云っているらしい。

「向いてるとかどうでも良かったんだよ。俺は葛飾から出たかったの」

そんな人は、あまり周りにいなかった。
気楽で便利な立地だから、出てゆく必要性を感じないのだ。

「歳イッたら出れるって。智美の親みたいにさー」
「そうだな」
「俺は考えたことないけど、たぶん理想だよなぁ」

先年、うちの両親が大洗町へ移住した。住民票はそのままなので、いずれは戻ってくるかもしれないが、まだまだ先のことだろう。

「あ、俺ね、来年から全国周るんだ!」
「へぇ全国ツアー?」
「文化庁の選定した劇団が、学校で公演したり、ワークショップやったりするんだけど、俺と座長ともう一人、女の子が参加させてもらえることになっちゃった」
「スゴイじゃん!」
「ああ、来年は演劇だけやって生きられる!」

銀河はそう言ってから、少し寂しそうに肩を落とした。

「なんか最近、うちの仲間おかしいんだよね」
「そうなの?」
「俺らだけ選ばれたせいもあるけど、その前から、なんか・・・俺、悪いことしてるかな・・・」

最後のセリフは、『台詞』だ。
なんか白々しい。
海星が遮るように、
「すみませーん、ウーロン茶ー」
と言ったが、止められなかった。

「女の子たち、なんか仲が悪いんだよね。座長もさ、うち女じゃん?だから、悩みとかあると、みんな俺のとこ来ちゃって。他にも男の団員いるのに、みんな俺のとこ来ちゃうんだよね。頼られるのは嬉しいよ!?でも特別な感情とか抱かれちゃうと、やっぱさ、キツイっていうか」

これがなきゃ、いいヤツなんだけどなぁ。
自分大好きが強すぎるんだよなぁ。

「もう(脚)本もあってさ、稽古してるんだけどさ、なんか泣き出しちゃう子とかいて。どうなんだろうね。この旅で、俺たち変わってゆけるのかな・・・」
「さっ帰ろっ!」
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