たまさか猫日和
店を出ると、雨はもう小降りになっていて、傘をさすまでもなさそうだった。
どっちにしろ、帰りは海星が車で送ってくれる。

「あ、座長だ」

座長と呼ばれた人は、宝塚の男役でもやっていそうな長身の女性だった。
その同じ傘に、華奢な女の子がホムラを抱いて、十年前に流行ったような服装で入っている。

「これから帰るの?」

銀河が尋ねた。

「そうだよ。家で稽古しとかないと」
「そっか」

女の子は恥ずかしそうに目を伏せて、銀河の方を見ようとしない。

「じゃあね」
銀河も万事理解した風に、女の子の顔をわざわざ覗き込んだ。
女の子が、赤くなりながらコクンとうなずく。
二人が傘を揺らしながら去ってゆく。

「オイ」
海星が言った。
「殺し屋の顔で、睨んでるオンナがいるぞ」
「え?こ、殺し屋?」
海星がアゴでシャクった先を振り返った。
本当だ。数軒先の飲み屋の軒先で、去ってゆく二人を睨みつけている女がいる。

「うわ。今の見られちゃったかぁ。これはマズイことしたなぁ。最初はあの子が選ばれるところだったけど、あっちの子に決まっちゃったんだよーマッズイなぁ。俺、この前さーあの子に先輩と一緒に行きたいですって言われちゃって・・・断ったんだよ?仕事なんだから、ダメだよって。でもバイトも辞めちゃって、本当についてくるみたいなんだよね」

嬉しさを押し隠しながら、銀河は自己陶酔の渦に飲み込まれてゆく。

「俺たち、若すぎて自分で自分が見えなくなっているのかな・・・この旅で、俺達の関係がどう変わってゆくのか、それとも変わらないのか・・・その先の未来は誰にも分からないけれど・・・」

私は銀河に向き直ると、その頬を力いっぱい引っ叩いた。
元卓球部である私のスマッシュを受け、銀河の顔が半回転した。

「へ?ひえ??」
「銀河、今、その脚本持ってんの?」
「え?あ、ありまふ」
「出しなさい。早く」

雨の当たらない場所へ移動して、脚本を開いた。

「・・・これ、この台詞の役、座長?」
「そうでふ。俺はこのー・・・」
「こっちの奴隷の娘役があの子?」
「なんで分かるでふ?」

なるほど。
百合か。

私は銀河を抱きしめてやった。
「ひ、ひいい?な、なんでふ!?」
「お前は頑張ってるよ、シロウトにしては」

地獄の全国ツアーに、行ってらっしゃい!
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