たまさか猫日和
「げっ」

渚ちゃんが店の前で立ち止まった。

「なに?」
「またあのオヤジ来てる」

渚ちゃんは勢いをつけて、ドアを開けた。

誰のことを言っているのか、すぐに分かった。
カウンター席に座るオッサンが、場違いなほど大きな声で喋っていた。

「まったくタバコも吸えねぇのかよ!参っちまうな!」
「条例で決まってるんです」
「かーっ!なにが条例で決まってるだァ。こっちはお客様だぞ、ったくよぅ!」

もう食事は終わっているらしい。
空の皿が並び、グラスも二杯空だった。
渚ちゃんは不機嫌を隠そうともせず、私から袋を受け取ると裏へと消えて行った。

「俺の若い頃なんか、アレだよ?病院だって電車だって吸えたもんだ!それがどーでぃ、最近は!こちらとら税金払って吸ってやってんのに、その場所がねぇんだから!」

客の多い時間帯ではないが、それだけに声の大きさが気になる。
私はツカツカとオヤジに歩み寄った。

海星が焦ったように、カウンターから出て来た。
「いいからっ!止めろっ」
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