たまさか猫日和
寝られなかった。
寝られないに決まってるでしょ!?
少しウトウトしたものの、やっぱり目が覚めては思い出した。
「猫がしゃべった・・・」
正確に言うと、猫の考えが伝わるという感じだろうか。
私と同じ常連の餌やりさんである花柄さんには、聞こえなかったらしい。
仕事は休む。
大丈夫だ。
今は閑散期の7月。
夏物衣料はバーゲンが始まっているが、本格的になる下旬まで、まだ一週間ある。
「怖い」
働きすぎなのか?
なんで猫の考えてることが、分かるようになってしまったんだ?
猫に会うのが怖い。
でも買い物をして帰るつもりが、あんなことがあったせいで、家まで逃げ帰ってしまった。
冷蔵庫には何もない。
時計を見る。
行くか。
顔だけ洗い、髪を適当に結ぶと、ほぼ着の身着のままで外へ出た。
そして、そのまま大通りを進み、堀切商店街へと進んで行った。
いる!
猫!
しかし、猫の声は聞こえなかった。
良かった~
「昨日はサイコーだったな~。あの子、また会えないかな~」
やっぱ聞こえた!
もうイヤ!
私は一人で首をフリフリと振ると、耳を押さえて歩き続けた。
そこに一軒の喫茶店がある。
店名は『No Reason』
喫茶店とは言っても二階建てになっており、席数はファミレスに近い。
昔はオシャレに見えたペンション風の建物だが、令和の今では「エモい」と言われるくらいが、せいぜい褒め言葉の最高到達点だろう。
私は暗い顔のまま、そのドアを開けた。
「おはようございまーす」
と、言ってくれるのは、この喫茶店の店主の妹。十八歳の渚ちゃんだ。
私はいつもカウンター席にしか座らないので、渚ちゃんもいちいち相手にはしない。
そのまま、別のテーブルの片付けに向かって行く。
「はあ・・・」
モーニングラッシュが終わる時間帯なので、お客さんは少ない。
そこかしこのテーブルに、まだ片付けられていない食器やおしぼりの残骸が残されていた。
私もカウンター席の分だけは、汚れ物をまとめておく。
「おはよう」
オバちゃんに声を掛けられる。
「おはよーございます」
「今日は休み?」
「ハイです」
「アタシもようやく休みだ。あーあ」
この店で早朝清掃のパートをやっているこのオバチャンは、もう四、五年の付き合いにはなるが、未だに名前を知らない。
気難しい旦那さんが亡くなった後、この近所に移り住み、息子夫婦と気楽に暮らしているらしい。
かなりの痩せぎすだけど、そうとうな働き者だ。
「ここの前に居酒屋を一軒掃除するんだけどさ、全然ゴミ捨ててくれないから、行った途端にもうゴミ袋でいっぱい。まったく、腰やられちゃうよ~!」
「大変っすなぁ」
「やっと休める!」
「なんか美味しそうな匂いしますね」
「嫁さんが角煮好きだから、そこの惣菜屋でたまに買うんだ。毎回見るんだけど、すぐ売り切れちゃうんだから。有名なんだよ?」
寝られないに決まってるでしょ!?
少しウトウトしたものの、やっぱり目が覚めては思い出した。
「猫がしゃべった・・・」
正確に言うと、猫の考えが伝わるという感じだろうか。
私と同じ常連の餌やりさんである花柄さんには、聞こえなかったらしい。
仕事は休む。
大丈夫だ。
今は閑散期の7月。
夏物衣料はバーゲンが始まっているが、本格的になる下旬まで、まだ一週間ある。
「怖い」
働きすぎなのか?
なんで猫の考えてることが、分かるようになってしまったんだ?
猫に会うのが怖い。
でも買い物をして帰るつもりが、あんなことがあったせいで、家まで逃げ帰ってしまった。
冷蔵庫には何もない。
時計を見る。
行くか。
顔だけ洗い、髪を適当に結ぶと、ほぼ着の身着のままで外へ出た。
そして、そのまま大通りを進み、堀切商店街へと進んで行った。
いる!
猫!
しかし、猫の声は聞こえなかった。
良かった~
「昨日はサイコーだったな~。あの子、また会えないかな~」
やっぱ聞こえた!
もうイヤ!
私は一人で首をフリフリと振ると、耳を押さえて歩き続けた。
そこに一軒の喫茶店がある。
店名は『No Reason』
喫茶店とは言っても二階建てになっており、席数はファミレスに近い。
昔はオシャレに見えたペンション風の建物だが、令和の今では「エモい」と言われるくらいが、せいぜい褒め言葉の最高到達点だろう。
私は暗い顔のまま、そのドアを開けた。
「おはようございまーす」
と、言ってくれるのは、この喫茶店の店主の妹。十八歳の渚ちゃんだ。
私はいつもカウンター席にしか座らないので、渚ちゃんもいちいち相手にはしない。
そのまま、別のテーブルの片付けに向かって行く。
「はあ・・・」
モーニングラッシュが終わる時間帯なので、お客さんは少ない。
そこかしこのテーブルに、まだ片付けられていない食器やおしぼりの残骸が残されていた。
私もカウンター席の分だけは、汚れ物をまとめておく。
「おはよう」
オバちゃんに声を掛けられる。
「おはよーございます」
「今日は休み?」
「ハイです」
「アタシもようやく休みだ。あーあ」
この店で早朝清掃のパートをやっているこのオバチャンは、もう四、五年の付き合いにはなるが、未だに名前を知らない。
気難しい旦那さんが亡くなった後、この近所に移り住み、息子夫婦と気楽に暮らしているらしい。
かなりの痩せぎすだけど、そうとうな働き者だ。
「ここの前に居酒屋を一軒掃除するんだけどさ、全然ゴミ捨ててくれないから、行った途端にもうゴミ袋でいっぱい。まったく、腰やられちゃうよ~!」
「大変っすなぁ」
「やっと休める!」
「なんか美味しそうな匂いしますね」
「嫁さんが角煮好きだから、そこの惣菜屋でたまに買うんだ。毎回見るんだけど、すぐ売り切れちゃうんだから。有名なんだよ?」