たまさか猫日和
「うわあああああん!」

泣きながら、No reasonの扉を開けた。
お客様が何事だろうかと、こちらを見る。

時刻は朝8時。ゴミ出ししようと早めに出たら、アレがまた置いてあったのだ。今日は、出口の左脇に置かれていたので、外に出てから気がついた。しかし、帰れない!

「どーした、ネェチャン。失恋でもしたかい?」

常連のジーサマが声を掛けてくる。

そこでハッとした。
口には出せない。

「と、とにかく、一杯ください…」

今日は渚ちゃんはいない。
アルバイトの保坂さんが、水を持ってきた。
「どーしたの?」
「どーしたもこーしたも…」

海星の声だけがキッチンから聞こえた。
「なんだ、またかよ」
「まただよ!」

机に突っ伏して、今見たものを記憶から消そうと試みる。
ーーーーデキナァァァイ…!なんで2日連続?
私になんんんの恨みがあるの?

出勤時間は10時だから、まだ間に合う。
しかし、荷物を取りに戻る勇気がない。

「おまえ、アレ猫だろ」
「猫?」
「猫が持って来てんだよ」
「エエッ!?」

そ、そういえばそうだ。
確かに、猫の手口だ。

「なんで?…なんで、うちに?」

しかし、忙しい海星から返事はない。

「Aセット2」
「はあい」

この時間は、近所中の老人たちがモーニング目当てにやって来る。自分のことは大事だが、邪魔はできない。帰れなかったら、最悪このままお金だけ借りて出勤しよう。え〜〜でもスマホないじゃーん…。

撃沈する私に、ホットサンドとコーヒーが届いた。
「待っとけ。九時になったら行くから」
「!!…カミサマ!」

海星さま!

キラキラネームとか、ゴーマンとか、そんなことばっか言って、本当にごめんなさい!反省します!

「来月の第二土曜日、出勤な」

へ?

海星の言葉に時が止まる。

保坂さんが手を合わせた。
「ゴメンネッ。うちの子たち、運動会なの」
「孫のとこもだァ。今、運動会も11月にやるんだってなァ」
「そうなのよー。温暖化のせい?あっ今行きまーす」

え?
繁忙期の土曜日に、仕事休んで、アルバイト?
へ?へ?
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