たまさか猫日和
テンちゃんは、ずんぐりむっくりのキジトラ猫で、堀切天祖神社周辺を束ねていたボス猫だった。
しかし、年齢が推定十歳を越えたころから衰えを見せ始めた。

数ヶ月前、いつも通りに餌やりへ向かうとヨロヨロとテンちゃんが歩いて来た。ずいぶん歳取っちゃったなぁと、寂しい気持ちでアゴの下を撫でようとした時だった。

「ギャアアアアアアア!!テンちゃん!!ぎゃああああ!!」

猫が撫でられると喜ぶ、あの場所がザックリなかった。


テンちゃんは、騒ぐんじゃねぇとでも言うように「アア」とだけ鳴いた。
慌てて友部さんに電話をすると、
「捕獲器でもいいけど、テンちゃんだったらタオルでいけるんじゃないかな?」
と言う。

「捕獲器がイイィィィ。だって、ザックリ…ザックリ無いんですよぉ?」
「捕獲器は、いざって時のために取っておきたいから、タオルでいっちゃって」

仕事中だったらしい友部さんに、それ以上すがるわけにもいかず、私は家まで走ってタオルケットを持ってくると、そっとテンちゃんを抱き上げた。

「ううう、テンちゃん。コワイ。コワすぎる。でも死なないでね」

テンちゃんは大人しく抱かれ、動物病院でも騒ぐことなく治療を受けた。
よっぽど弱っていたのだろう。

「出せーっ!出せこのクソ野郎め!出さねぇとカッコロスぞ!!」

元気になって良かった。うん。

「退院した後、金町の『預りさん』のとこで暮らしてたはずなんだけど、どうしてこんなとこにいるんだろう?」
「戻ってきたんだろうな」

まぁそうとしか考えられない。
いくら同じ区内と言ってもけっこう遠いのだが。
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