たまさか猫日和
金町の預りさんは、すぐに飛んできた。
文字通り、すっ飛ぶように捕獲器に抱きつくと、オイオイ泣いた。

「っるせぁババアだなぁ」

ウンザリした顔のテンちゃんに、私は人さし指を突きつけた。

「アンタね、誰のおかげでそんなに元気になったと思ってんの?うちの干物盗むくらい弱ってたんでしょ?それが獲物を取れるくらいに回復したのは、この人が心を込めて世話してくれたおかげでしょうよ!」

テンちゃんは、居心地悪そうにうめいた。

「メシが口に合わねぇんだよ」
「体が弱ってんだから、仕方ないでしょ。それでも食べられるものを用意してくれてるんじゃない。そのお陰で調子が良いんだから文句言うんじゃないよ」
「別にもういつ死んだってかまいやしねぇ」
「バカだね。死ぬことなんか当たり前でしょ。死ぬまでの間に苦しむか、楽に生きるか、その違いなの」

預さんは、私達の様子を見て泣きながら笑った。

「うちの父とアタシみたい」

鼻をすすって、顔を上げた。

「そうやって、言ってやれば良かったね。猫だからってさ、大事にしすぎたわ。家族なんだもんね」
「もう『預かり』じゃないんですね?」
「預かりは止めた。もう家族だ」

天ちゃんは、ふてくされたように目線を合わせない。
でも心なしか、ホッとしているようにも見えた。
< 32 / 56 >

この作品をシェア

pagetop