たまさか猫日和

お仕事猫

そもそもが立ち仕事だから、体力は割とある。接客中はパンプスを履くことに決まっているので、むしろスニーカーで構わない喫茶店の仕事は、足への負担が少ない。

問題は客層である。

「ねぇちゃん、新聞取って」
「え?どれですか?」
「いつも決まってんだろお!?」

知らん。

海星が助け舟を出す。
「東京日報」
「ああ、はい」
「朝だからってボーっとしてんじゃねぇよ。ったくよぉ」

パンっと新聞を広げて読みだす。足も出産すんのかというほど広げている。

オッサンこそ、いつものウェイトレスじゃないのに気づけよ。ホントここいらのオヤジどもは、ガラが悪い。

しかし、悪気はないのは分かってる。先祖代々、この地に住み、外も自宅もすべてオレの縄張りというスタンスで生活しているので遠慮がないのだ。オンナは全員『カーチャン』だし、オトコは全員『アンチャン』だと思っている。

十一月になった。行楽シーズンを迎え、どことなく街が騒がしい。
今日あたり、銀座は混むんだろうなぁ。ボーナス査定前に。少しでも個人売り上げを高くしたいこの時期に。繁忙期のこの土曜日に。
No reasonで朝からバイト。なんの因果か。

「野菜、もっと多めに盛って大丈夫」
「OK」

人によって、盛付けを変えているらしい。
渚ちゃんが作ってくれたイラスト付きの表を確認しながら、食事にセットするカトラリーをトレイに並べてゆく。

「おねーさん、こっちお替わりね」
「はい、ただいま参ります」
「『ただいま参ります』って、はッ。チョーシ狂うねぇ、どうも」

口の減らない奴らである。
向かいに座るオバちゃんは顔見知りだ。

「このオネーサンは銀座でマヌカンやってんだよぉ。当たり前じゃないか」
「なんだ、銀座のホステスか。それがこんなとこで何やってんだ?」
「ホステスなんて言ってないだろ、バカ!」

バカっと、やったろかこのヅラオヤジ。
こっちも個人情報を知り尽くしていることだけは、唯一の強みである。
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