たまさか猫日和
11時のランチタイム前に、調理補助の『あばよのオバサン』こと安田さん(82歳)が来る。それを見計らって、昼休憩に入った。

「ふあーあ」
あくびをしながら、作ってもらったグラタンを手に二階へ上がる。奥に狭い休憩スペースがあるのだ。
ここのグラタンは、大好物だ。ただモーニングメニューにないので、あまり食べる機会がない。ルンルンしながら部屋へ入り、まだ熱々なので少し冷まそう、ついでに外の空気を吸おうと小さな窓を開けた。

「ねえええええええ!!」
「わわっ」

あの白黒猫が、目の前の屋根に乗っかっている。

「中に入れてよお~」
「なんんんでなの!?無理だって言ってんでしょ!?」

開けた窓を慌てて細くする。

「でも手伝いたいんだよお」
「だから、なんでって!?」
「ご馳走くれたんだよお」
「え?だれが?」
「さっきのニーサンにだよお」

海星が…!?猫に…!?
それは不良が猫を可愛がるより意外な話だ。
海星が動物を可愛がるというイメージが全然ない。記憶にもない。アイツは猫が生きていようが、死んでいようが、「商売のジャマ」となったら、冷徹につまんでポイっとするタイプである。

「…何をどう助けてもらったの?」
「僕のために、ネズミをくれたんだよお」
「ネズミ…?」
「あそこのバケツに、ネズミを入れてくれたんだよお」

そ、それって・・・

「それ別にエサであげたわけじゃないよ!」
「スズメもくれたよお」
「もおおうっ、やっぱり!うちから持って行ったやつじゃん!」
「オネーサンがくれたの?」
「捨てたの!あげたわけじゃない!」
「ありがとうねぇ。本当に助かったよぉ。粒粒のエサも貰うんだけどさ。なんか違う味になっちゃってさぁ。ボク、グルメなとこあるじゃない?もう食べたくなくてさぁ」

ああ、アレだ~~~。
賞味期限が近いのをホームセンターから寄付されたんだ~~~~。

「変える!別のエサに変えるから!もうゴミ漁りしないで!」
「漁ってないよお。あのバケツの中で寝てたら、上からドサっと…」
「川崎さんとこで寝てよ!」
「そんなわけで、なにかお手伝いを…」
「いろいろムリッッ!絶対入るなッ!」

慌てて窓をピシャリと閉めた。
もうグラタンは冷めていた。若干、食欲も減退していた。
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