たまさか猫日和
二時頃になると、デザートセットやドリンクのみのオーダーが中心となる。あばよのオバサンは、八十代とは思えぬ手早さで洗い物を片づけて、「あばよ」と言って風のように退勤してゆく。

店の中から忙しなさが消え去り、いつの間にか客層も変わって、ゆったりとした午後のひと時がやってくる。

渚ちゃんは「完全に休日の日も嬉しいけど、働いてる土日の三時からが無性に好き」と言う。確かに、これぞ喫茶店という感じ。そこには堀切なりの品格が漂っている。

さっきゴミ捨てに行ったが、白黒猫は顔を出さなかった。
帰りにエサ買って帰らなきゃ。前から買ってたやつでいいのかな?
けっこう食の好みにうるさい猫って、いるんだよなー。

海星が、フルーツパフェを三基いっぺんに作っている。
床に小ぶりな段ボールが五箱積まれている。

「それ、箱から出してストックに並べて」
「了解」
「けっこう重いよ」
「あ、本当だ。でも大丈夫」

中身はトマト缶だ。この量があっという間になくなっちゃうんだから、スゴイよなぁ。海星の仕事ぶりもすごい。こっちでスパゲティ、あっちでピザ、スパパパパンッとフライパンや鍋を並べて、無駄のない動きに、ミスのない集中力。それでいて、不思議とスマートに見える。

店が流行っているのは間違いない。今さらながらに驚いてしまう。銀河の言う通りで、まさか海星が接客業をやるとは思わなかった。特に愛想がいいわけじゃなし、昔から人見知りなところがあった。

素材を選んで、味も値段も吟味している。でもそれは、負けず嫌いだから「うっせーことは言われたくねぇ」という気持ちなんだと思っていた。

でも今日、一緒に働いてみたら、仕事の中にお客様へのほのかな愛情があることに気がついた。そうじゃなければ、新聞なんか自分で取れというハナシだし、野菜を大盛りにもしないだろう。
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