たまさか猫日和

スパイダー猫

家には車庫スペースがないので、斜め向かいのコインパーキングに停め、そこから海星が荷物を運んでくれた。

狭いドアを思いっきり開き、エサを受け取る。
「ありがと…ひぇっ…!」

受け取った足先を何かが猛スピードで走り抜け、家の中へ入って行ったのだ。

「な、なに!?」
「あんんの…ドラ猫」
「エッあの子!?」

家の中から、バタバタと駆けずり回るものすごい物音がした。
慌てて、家の中に入る。

「ああああ~、お母さんの人形…」
「なんだ?どこ行った?」

母の嫁入り道具の陶器の人形が、落ちてケースごと割れている。
なんて、こった…

海星と二人で、狭い家の中を追いかけまわった。

「ちょっ!アンタなにしてんのよ!?もおおおー!」

白黒猫に向かって声を張り上げる。
猫は答えた。

「車で寝てたのー!!」

へ?海星の車?
ああっ!さては猫バンバンしてない!?

「分かった!分かったから!ちょっと待って!」
「コワカッタコワカッタコワカッタよぉ!」
「ごめん!ごめんってー!」

よく無事だった!ぜんぜん気づかなかったこちらが悪い。しかし落ち着いて欲しい。
パニックに陥った白黒の塊は、壁すら物ともせず走り回る。まったく捕まえられなくて、もはや可笑しくなってきた。

「ヒドイヨゥヒドイヨゥ…」
「すげぇ。スパイダーマンみたい」
「これ…捕まえるの無理じゃない?」

私は玄関を開け、そちらへ誘導する作戦に切り替えた。奥から追いかけ、玄関へと誘導する。何度も挑戦して、ようやく玄関へ繋がる廊下へ出た瞬間だった。

「わっ!!」

猫が蹴り飛ばした安物のタンスが崩れ、私に向かって倒れてきたのだ。
思わず、体を反らしたが間に合わない。
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