たまさか猫日和
夢を見た。
私はまだ子供で、みんなと夢中で遊びながら、それでも横目で猫を探している。
あそこにいるかも?
あの裏から出てくるかも?

だんだんと、みんなから離れてゆく。
いつまでも一緒に遊んでいたい。
一人ぽっちになりたくない。

でも猫が見つけたら、家に帰ろう。
連れて帰って、誰よりも面倒をみよう。
世界一幸せにしてあげるんだ。

猫を見つけたら…


「おい」
の声で目が覚めた。

「俺、帰るから」

外はまだ暗く、すぐには何のことか分らないほど眠かった。
海星がベッドサイドの灯りをつけた。
夢じゃない、もう覚めている、と気がついた時、海星が怪訝な表情でベッドを見つめていることに気がついた。

私もソロソロと目線の先を見た。
見た途端、今度こそ目が覚め、恥ずかしさに消え入りそうになった。

「もしかして…はじめてだった?」

これはヒドイ。
目をギュッとつむり、布団を顔まで上げた。

「もうお帰りください…」
「なんで言わなかったんだよ」
「この事はご内密に…」

布団が乱暴に剥ぎ取られた。

「なんで、言わなかったのか、聞いてるんだよ」

一言、一言、区切るような強さで言われ、仕方無しに理由を考えてみた。

「初めてなら、もっとやり方ってもんがあるんだよ」
「そうなんだ」
「俺、下手になったのかと思った」
「そうなんだ」

もう一度、布団を被ろうとしたが、その手には乗ってもらえなかった。海星の視線に耐えきれず、当然の事実を述べた。

「それは…初めてだから?」

海星の顔は見れないが、微妙な間があった。

「たしかに」
と、海星が言った。珍しく素直に。

「ごめん。痛かったよな?」

ええ、すごく痛かったよ。今も痛いし、違和感もあるよ。
と言うのは気の毒なので、

「お気になさらずに」

おかげさまで処女じゃなくなりました。
と言うのは、さすがに嫌味にしかならないので心の中に留めておく。
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