たまさか猫日和
無音

トカゲ男

「ナーナー」
と言いながら、母猫が体擦り付けてきた。
チビ猫はもう大人とあまり変わらない大きさとなり、それでも私によじ登る癖はそのままだ。

「イタタタイタ!」
「ナーォ」

チビ猫が私に向かって、エサを寄越せとねだる。

聴こえなくなってしまった。大丈夫、大丈夫、元に戻っただけだから。そう、自分に言い聞かせながら、チビ猫を撫でた。そろそろ名前つけないと。

「私が高校出でないがらっで、何が物がなぐなるど必ず私のぜいにざれる。でも学校出でないでも盗むのば悪いごどだっで、私だっでわがっでるでじょ」

花柄さんはベイマックスみたいなコートを着ているが、裾から覗くスカートは夏と変わらず、素材もそのままの花柄だ。寒くないんのだろうか。しかし、花柄さんとは猫以上に会話のキャッチボールができないので、聞いてみたことはない。

「学校は私だっで行っでるじ、ぞこでぢゃんど、ぢゃーんと勉強じでるのだがら、物を盗むどが、持っで帰るどがはじない。鮮魚部もんじゃないがら、魚だっで安ぐだげど、お金払っで買っでるんだがら!」

そうなんだ。今までも話を聞いていたけど、まともに聞いたことはなかったかもしれない。スーパーに勤めてるから、猫用に持って来るエサや魚の切れっ端は、もらって来ているんだと思っていた。

チビ猫を引っ剥がして、下に降ろした。

「どこ!?どこのスーパーにいるの!?」
「宝町」
「ノブスエのこと?」
「ノブスエは4づあるので?宝町の店ば大きぐばないげど、売上ば…」
「私、今から行ってくる!!」

ズンズンと進んでいく私に、花柄さんがつにのめりながらついて来た。

「一回だけだから!一回だけだからね。私や役所の人になんか言うんじゃないよ!自分でちゃんと店長に言うんだよ!」
「店長ば、障害者、障害者っで言うんだよ」
「だから、どーした!?アンタ!障害者でも立派に働いてるじゃないか!税金だって、年金だって払ってるんじゃないか!物だってちゃんと買ってるんでしょ!?なんでそれを言わないの!?言いたいことがあるなら店長に言いなさいよ!!分かってもらえるまで、しつこく何度も何度も言うんだよ!」

私は花柄さんに怒鳴り散らすと、そのままズンズン歩いていった。
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