たまさか猫日和
次の日、寝ぼけながらインターフォンに答えた。
モニターには、宅急便のお兄さんの姿が映っている。

「っちわーす。江戸川運輸です」
「はーい」

キャットフードだ。年末セールで、けっこう沢山頼んじゃった。お母さん、ウルサイから年末に帰ってくる時までに、片付けばいいけど。

2箱分の荷物を玄関先に入れてもらう。
お兄さんが言った。

「テンちゃん元気ですか?」
「はい?」

呆気に取られた私の顔を見て、お兄さんは焦った。

「あ、あ、あ、て、テンちゃんていうのは、この、近所で聞いた名前で」
「なんでテンちゃんのことを知ってるんですか?」
「金町で〜…見て…」
「金町で?」
「こ、ここかなーって感じで」

なんで?

「でわ、さようならー」
「待って待って待って」

お兄さんはコワゴワ振り返った。

「まだまだ配達があって…」
「金町でテンちゃんを見たの?いつ?」
「先月かなぁ?じゃっどうも!」
「待ってよ!それで何でうちに繋がるの?」
「この家の猫じゃないんですか?」
「ちがうよ」
「そうでしたか!では失礼します。年末なんでね〜忙しい忙しいッ」
「待たんかい!」

お兄さんは、心底弱った顔で私を見た。

「乗りません?」
「は?」
「本当に配達先が詰まってるんです」

自分の着の身着のままな格好を見た。
…いつも通りだ。

不審ながらも、上着だけ取りに戻り、お兄さんの軽ワゴンに乗り込んだ。
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