たまさか猫日和
クリスマスライブというから、ライブハウスで演るのかと思ったら、グランドピアノのあるレストランだった。
せっかくなので、店長を誘った。店長は韓流ドラマを見るつもりだったと言いながら、ヒョイヒョイついて来た。

レストランでコートをクロークに預けていると、
「わあ、それ懐かしいんですけどー」
と、店長が目を見開く。

今日の私の服装は、まだベトナム人デザイナーがデザインしていた頃、定番としていたシルエットだった。

「もうかなり着古してきちゃいました」
「そんなことないよ。ああ、良かったわね。あの時代は」

店長は現在の自社ブランドだ。濃い葡萄色のカシュクールワンピースが、肌色の白さを際立たせている。

「店長はその色が本当に似合う」
「私は、今のほうが似合う服多いのよね。デザインはあの頃の方が好きだったけど」

席に案内され、拍手でカルテットを迎え入れる。

「アレがカレシ?」
「あのラッパはカレシではないです」
「そっか。ラッパ吹く方か」
「え、本気でラッパの方だと思ってマシタ?」

軽く音合わせがあり、すぐに演奏が始まった。
響き渡る音がそれぞれに煌めいて、店内中に満ちてゆくようだった。

「良いね~!」
店長が感嘆の声を上げる。
私も自然に笑顔になり、ウンウン頷いた。

トランペットというものは、大学の吹奏楽コンサートを最後に聴く機会がなかったけれど、明朗で颯爽とした中に、ちょっと自分を茶化しているような哀愁があって、とても惹きつけられた。

二曲目が終わって、拍手が沸いた。
私もフォークを置いて、精一杯拍手した。

「カレシ、すごい上手じゃない。プロに上手って言うのもオカシイかしら?」

カレシではないと何度も否定したにも関わらず、店長は片桐さんをカレシと呼ぶ。

「プロとまではいかないみたいですよ。配送業もやってるので」
「そっかぁ。じゃあ、智美は糟糠の妻になるわけね」
「誰が糟糠の妻ですか」
「私はね、判るのよ」
「何がですか?」
「判るのよ。ずっとアイドルオタクやってきたから。アイドルは十代前半からスタートするでしょ。最初はね、白く光り輝いているの。パールみたいに。言っておくけど、決して洗練されているわけではないのよ?」
「はぁ」

そういえば、店長はアイドルに詳しい。男女問わず、国籍問わず。

「それがね、ある日ふっと不透明になるの。なのに、世俗的な美しさが出てくるの。それで判るわけ『はーん、オトコができたな』」

ブッッッッと、シャンパンを吹きそうになった。
そ、それって!

「おめでとう」
「いえいえ、全くの誤解です」
「ご卒業、おめでとうございます」
「ホント、ホントに誤解です!」

店長は目を閉じ、静かに首を横に振った。

「私の目に狂いはない」

否定する間もなく、再び演奏が始まった。
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