たまさか猫日和
店の前で店長と別れ、駅に向かっていると片桐さんから電話が来た。

「もう帰るんですか?」
「帰るよ。すごく良かった!店長も喜んでたよ。また誘ってね」
「メシ食いに行きませんか?割り勘ですけど」
「私、食べましたから」
「そうですね、でもまだまだ食べられるんじゃないですか?」
「それはアナタの話でしょ」
「俺、クリスマスに一人でメシ食う勇気ないんすよ…」

なんだ、それ。
牛丼でもラーメンでも気にせず食べられるとこ、いっぱいあるだろうに。

「じゃあ、ファミレスでいい?」
「ハイ、もちろんです。送って行きますから!」

ファミレス、割り勘、軽ワゴン。
なかなか学生気分の味わえる、クリスマスナイトである。
ファミレスは二人席しか空いておらず、私は頼むのを諦めた。

「来てくれて、嬉しかったなぁ。本当に来てくれる人は少ないんすよ」
「年々、減るよねー」
「その服も超似合ってます。すっごいカッコイイ」
「デヘヘ。ありがとう。昔の自社ブランドなんだ」
「女の子が、二人も来てくれたから超テンション上がっちゃいました」

お、女の子!
ああ、店長!
一緒に聞かせてあげたかった!

私が勝手にキラキラしていると、次々に料理が運ばれてきた。テーブルに乗り切らないので、後でまた追加するらしい。

「カノジョいないんだね?」
「はい、デキないっすね。ジブンでも欲しいとは思ってるんすけど、なんかコワイっていうか…」
「コワイ?」
「すごくお金が掛かりそうじゃないですか?」
「はあ、お金ね」
「ジブン、そんなの無いんで」

これじゃあ、確かに出来ないな。

「まぁいなくてもいいんじゃない?」
「これでもモテてた時代もあったんすよ。でも歳取るごとにダメですね。臆病になるわ、面倒になるわ」
「分かる。私もそう」

片桐さんは、不思議そうな顔で私を見た。

「あ、ゴメン。私にモテてた時代なんてなかったわ」
「でも居るんじゃないんですか?」
「いないよ」
「じゃあ、なんで聴こえなくなったんすか?」

・・・・赤面。

「そのシステムを知ってたのね」
「それしかなくないっすか?」

パクパクパクパク・・・
よく食べるなー。

「すみません、こんなに食べて」
「いや、いいよ」
「割り勘なのに」
「生ゴミに埋もれてシネ」
「大盛りポテト頼んでもらっていいっすか?」
「除夜の鐘聴きながら孤独死しろ」
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