たまさか猫日和
片桐さんが帰っても

「帰ってくるのが遅すぎる」
「いい相手がいるなら、すぐに紹介しなさい」

という、およそ三十路の女に言うことではない説教を聞き流しながら、ようやく開放された午前0時。

「本当にオジサン、オバサン、心配してくれてアリガトウ。海星もね、本当にご心配お掛けして私は深くハンセイをいたしました。では、明日も仕事なので。ハイ。ドーモ」

玄関は、開かなかった。
残念ながら、ここからが本番である。

「店で話そうか?」
海星がドアを開かせまいと押している。

「まさか。それはどうだろうか。お互い、明日も仕事なわけで」

私は必死でドアを開こうとした。
しかし、凄まじくドスの聞いた声が上から降ってきた。

「店で、話す、んだよ」
「ハイ、そうしましょう…」

一瞬でタイムスリップする、この感じ。子供のころ、誰かが小さい子を仲間外れにしようとすると、必ず登場する魔王と呼ばれた少年。海星がこういうモードに入ったら諦めるしかない。大人しく店まで道を歩く。

無言。
無音。

震えてしまうのは、寒さのせいだけとは言えない。
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