たまさか猫日和
「…だから、いつも公演に来てたの?」
「そうだよ」
「私と銀河が男女の関係になると思って?」
「ありえるだろ。おまえ、何にも考えてないんだから」

銀河はともかく、私まで下半身のユルイ人間だと思われていたのはショックである。

「ひどい…私、なにか悪いことした?…普通に真面目に生きてきただけなのに…」

泣きそう。長年の信頼関係はどうなちゃったんだろう。

「真面目にやってんのは知ってるよ。だけど信じたそばから、他のオトコと深夜に帰宅はキツイ」

海星が弱音を吐いている。それは衝撃だった。初めて接する姿に、戸惑った。自分がここまで海星を傷つけていることも知らなかった。

「ごめん」
「だから嫌だったんだよ」
「大丈夫?」
「大丈夫じゃねーよ」

そのセリフ、あの夜も聞いた。でも私の解釈が間違っていた。海星は自分に嫌悪感を抱いていたんだ。
海星の腕が伸びてきた。当然のように、その胸に抱かれた。


「銀河のことは、イタいヤツとしか思ってない。片桐さんは、私が割り勘できる女だから誘ってくるだけだよ」
「分かってない」

海星の声は晴れない。

「銀河のモテアピールは、明らかにお前を意識してるだろ。あんなドMにビンタして、抱きついて。もうアイツ、完全にお前が堕ちたと思ってるよ」
「え!?嘘だっ」
「あのサルのことは知らねぇけど、割り勘だろうが奢ってくれようが、気に入ってなきゃ誘わねーよ」
「気に入られたくないッ」

ギュッと腕に力がこもった。

「それが、なんで分かんねんだよ」
「その、すぐに締めコロそうとするの止めて…」
「俺が初めてとか、どうなってんの?浮かれすぎて、死にそうなんだけど」

この言葉を聞いて、ようやく安心感と嬉しさがこみ上げてきた。

「…私も、海星が初めてで良かったと思ってるよ」
「ほんと?」
「うん、今思った」
「今か」
< 55 / 56 >

この作品をシェア

pagetop