たまさか猫日和

セリフ猫

「イア!だ!」(嫌だ)
三郎が、歯をむき出した。

「喧嘩しないで!シマ子もこっちに自分のあるじゃない」
「ワダッワダワダワダ」(分かった分かった)

そう言いつつ、いつの間にか三郎のご飯を食べようとする。食いしん坊だなーもう。

どうも人馴れしていない猫は、人語が話せないらしい。

三郎とシマ子は、同じ母親から生まれた兄妹だ。合計で六匹いたが、他の兄弟姉妹たちはもらわれてゆき、警戒心の強かったこの二匹だけが、地域猫として残った。

未だに、私も触らせてくれない。以前は常に警戒心MAXで、私が姿を消すまで食べなかった。それがここにきて、私が三メートルくらい離れていれば、食べるようになってきた。

もうっ可愛いんだから〜!

季節は梅雨に入っていた。今日はなんとか天気がもったものの、明日は雨になる。

「雨だってよ~。川崎さんとこで、ジッとしてるんだよ〜」

川崎家には、地域猫専用の猫小屋が設置されている。そこには、いつも数匹の猫がたむろしているのだ。

「また客足が落ちちゃうな」

二八(ニッパチ)と呼ばれる、2月と今月8月はものが売れない閑散期だ。アパレル販売の仕事をしている私には、ゆっくり仕事ができる有り難い月でもあるし、売上目標が達成しにくい苦難の月でもある。

あーあ、私も猫小屋で何も考えずゆっくりしたい。

「も!ダ!ダー!」(もうダメ!)
「イッ!ゴンゴゴンゴ!」(ゴメンゴメン)

とうとう三郎の猫パンチが出た。
シマ子が目をシバシバさせながら、頭を低くする。

「明日は、友だちの演劇観に行くから、友部さんが来るよ」

そう言って立ち上がると、二匹ともサッと茂みに消えた。
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